「ピコ太郎」が世界でこんなにも売れた理由 一種のまぐれ当たりだが、そこに意味がある

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もちろん、今回の大ブレークの鍵を握っているのは、ピコ太郎のプロデューサーである古坂大魔王という人物そのものだ。古坂はもともと爆笑問題やくりぃむしちゅーと近い世代の芸人だった。彼らの間では、昔から古坂は「天才」と言われてきた。どんな分野であれ、その道のプロが太鼓判を押すというのは相当なことだ。古坂には確実に笑いの才能があった。同世代の芸人たちは誰もがそれを認めていた。ただ、この才能は、テレビで売れるための才能とは別ものだったりする。そこに問題があった。

古坂がネタをやっているところやしゃべっているところを見たことは何度かある。話す内容は面白いし、ギャグや動きにもキレがある。ただ、そんな彼の芸風を一言で言うと「異常なまでのマイペース」ということになる。サッカーで例えるなら、自分一人でドリブルして敵陣に走り込み、そのまま自分でシュートを決めてしまうタイプだ。

今のバラエティはチームプレーが基本

ただ、今のテレビバラエティでは、チームプレーが基本となっている。出演者同士で空気を読み合い、細かいパス回しをして、助け合いながらゴールを決めることが求められる。「ひな壇芸人」という言葉に象徴されているとおり、ひな壇に横並びになった芸人たちは、一丸となってそれぞれに与えられた役割をこなすことが重要だ。ひたすらわが道を行き、自分だけが目立ちたいというタイプの古坂は、そういう場所ではなかなか持ち味を生かしきれなかった。

実際、ピコ太郎として10月19日の『スッキリ!!』(日本テレビ系)に出たときにも、彼はやや浮き足立っているように見えた。ピコ太郎というキャラクターの世界観を守り、自分のペースで奔放にジョークを飛ばしまくる彼を、歴戦の猛者であるMCの加藤浩次が何とかフォローしているような形になっていた。

テレビに出て売れるためには、独特の才能が求められる。たとえ芸人であっても、単に面白いことが言えればいい、面白いネタができればいい、というものではない。面白いのはもちろん、愛すべきキャラクターを持っている人だけが、長きにわたって視聴者に受け入れてもらえる。テレビの視聴者は感覚的に出演者の良し悪しを判断している。それが視聴率という具体的な数字になって表れ、番組の命運を左右する。テレビで愛されない人はテレビに出ることはできない。古坂は長い間そこに居場所を見つけられないタイプの芸人だった。

だが、インターネットの世界ではこの基準がガラリと変わる。ネットで見られる数十秒の短い動画に人間性を求める人はいない。ただ底抜けに楽しくて面白ければそれでいい。そこにピコ太郎の付け入る隙があった。目の前にあったリンゴにペンを刺したらたまたまひらめいた、と本人が語っている「PPAP」は、世界への扉を開く鍵の役目を果たした。ピコ太郎の成功自体は偶然かもしれない。ただ、規格外の才能を持った彼が世界で売れるのにはそれなりの必然があったのだ。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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