日銀は実質的に金融政策を変更している 金融緩和の目標に変化はないが達成は困難

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10年国債利回りを「概ね0%」に持っていくためには、利回りがマイナス水準にある局面では、日銀は保有する長期国債を市場で売却するのが筋である。

しかし、日銀が市場で長期国債を売却するということは、マネタリーベースを落とすことになる。

つまり、マイナス金利下で、10年国債利回りを「概ね0%」で推移させつつ、マネタリーベースを年間約80兆円増加させるというのは、両立しない無理な話だということだ。

償還まで保有すれば確実に損失の出るマイナス利回りでの国債を購入できるのは、日銀とドル資金を持っている投資家くらいしかいない。

そうした中、足元の為替スワップ経由のドル調達コストは2009年2月以来の高水準に達しており、マイナス利回りでも日本国債に投資できる投資家は存在している。つまり、足元の状況は、日銀が国債を購入しなくても国債利回りがマイナスになる可能性が十分にある。

「金融政策の実質的な変更」にあたる

そうした中、足元の為替スワップ経由のドル調達コストは2009年2月以来の高水準に達している。これは、ドルを保有している投資家の立場から見ると、円調達コストが低下し、マイナス金利で円を手に入れられるということだ。円資金をマイナス金利で調達できる投資家が存在し、マイナス利回りでも日本国債に投資することが可能だということは、日銀が国債を購入しなくても国債利回りがマイナスになる可能性が十分にあるということである。

国債利回りがマイナスで推移するなかで日銀が国債を購入するということは、国債利回りに低下圧力を加えマイナス幅を広げることになるので、「概ね0%」で推移するという金融調節目標達成を自ら難しくすることである。この先、黒田日銀が打ち出すと考えられる次の一手は、「概ね0%」の「解釈」を-0.05%、-0.1%と広げていくことになりそうだ。

黒田日銀は、これまで「金利」「量」「質」の3次元で金融緩和を推し進めるとしてきたが、マイナス金利になったことで、「金利」と「量」の金融緩和を両立させることは不可能になったと考えておくのが賢明だ。

「イールドカーブ全体の金利低下を促す観点から」

これは、「政策の逐次導入はしない」と大見得を切って「異次元の金融緩和」に踏み込んだ黒田日銀が、今年の7月まで行ってきた4回の追加緩和を含め、全ての政策変更時に公表文書で表明して来たものだ。

それは、「イールドカーブ全体の金利低下を促す」というものが「異次元の金融緩和」の「要諦」だったことを意味している。

その「異次元の金融緩和」の「要諦」であったはずの「イールドカーブ全体の金利低下を促す」政策を今回の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」では放棄した。これは大きな金融政策の変更だといえる。

黒田日銀が掲げる金融緩和目標には変化はない。しかし、実際にはそれは達成不可能な目標になってきている。

重要なポイントは、「マイナス金利の深掘り」と「量的緩和」は両立させることは出来ないということだ。

近藤 駿介 金融・経済評論家/コラムニスト

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こんどう しゅんすけ / Shunsuke Kondo

1957年東京生まれ、早稲田大学理工学部土木工学科卒業後、総合建設会社勤務を経て、31歳で野村投信(現野村アセットマネジメント)に入社。株式、債券、先物・オプション取引等を担当した後、野村総合研究所に出向しストラテジストとして活躍。再び、野村アセットに戻ってからは、担当ファンドが東洋経済の年間運用成績第2位に選出されるなどファンドマネージャーとして活躍。その他、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)である「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、1996年に野村アセット初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は金融や資産運用に関する客観的な知識を広めるべく、合同会社アナザーステージを立ち上げ、会長兼CEOとして、一般向けの金融セミナーや投資セミナーなど専門家向けセミナー等も開催中。自身が手掛けるメルマガ『マーケット・オピニオン』は、個人投資家から圧倒的な支持を得る。

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