インドネシア、まさかの「禁酒法」審議の衝撃 バリ島でお酒が飲めなくなる?

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インドネシアでは長い間、忍び寄るイスラム化が恐れられてきた。インドネシアは、イスラム教徒人口が世界最多の国だが、影響力のあるキリスト教徒や、ヒンドゥ教徒、仏教徒も存在する(バリ島の住民の大半はヒンドゥ教徒だ)。

長年にわたり独裁体制を敷いていたスハルト大統領が追放されると、インドネシアは1998年に民主化に向けて動き始め、その中でイスラム系の政治家も台頭してきた。過去10年ほどの間には、各地の地方自治政府がイスラム法の影響を受けた規則を制定し、その多くが道徳規範を遵守させるものだった。インドネシアの憲法裁判所には、同性間の性交渉を違法とするよう求める請願や、現在の姦通法を拡大して、未婚者間の性交渉を同法に含めるよう求める請願などが、イスラム教のグループから寄せられている。

現在提出されている法案は、アルコール飲料の製造、流通、販売、消費、所有を禁止するもので、インドネシア国民だけでなく外国人観光客も同法の対象となる。違反すると、最長で10年の禁固刑が科せられる可能性がある。

法案を支持しているイスラム系政党を批判する人々は、同政党が主張する健康への懸念は表向きのもので、その背後には、インドネシアをシャリア(イスラム法)に基づくイスラム国家にしようとする狙いがあるという

健康被害は違法な蒸留酒が原因

イスラム系の政党、開発統一党(PPP)の議員で、同法案について議論を行う特別立法委員会の議長であるムハンマド・アルワニ・トマフィは、PPPは純粋に健康面への懸念から同法案を考えているという。彼は「国民を守るために、アルコール飲料の禁止を法律化するべきだ」と言い、インドネシア全体で「何十人」もが、飲酒が直接に関連した原因で死亡していると述べた。

彼が示した数字は正しいものの、そうした死のどれもが、店舗やバーやレストランで合法的に販売されているアルコール飲料によるものではなく、不法に製造された蒸留酒によって引き起こされたものだ。そうした蒸留酒の製造には、何百あるいは何千もの密造業者が関わり、インドネシア警察はそれに対して概ね目をつぶっている。なお、合法的なアルコール飲料は、主にインドネシア人の富裕層や外国人に売られている。

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