しかしながらインド経済はすでに、十分な高成長を達成している。実際、世界経済の成長が芳しくなく、国内で2度の大きな干ばつに見舞われたにもかかわらず、成長率は7%を上回っている。かつてなら、これらの1つの事態に直面しただけで、経済は急降下していたはずである。
課題は、こうした基盤の上にどう安定した経済を築くかである。今、各国が豊かになるにつれ、貿易外のサービスが膨らみ、さらに世界的な生産過剰によって貿易の伸びが抑えられている。インドもかつてのように、貿易が2ケタ成長を記録するような事態は起こりにくい。
こうした状況を憂慮し、輸出関連の業界団体からは、当局が介入して通貨ルピーの価値を下げるよう要求されることもある。実際、ルピーは15年初め以降、対ドルで約6%下落し、インド製品の輸出を下支えした。
一方、経済成長を期待する国民からは、強いルピーを期待する声も大きい。自国通貨の強さは、国家自体の強さをイメージさせるだけでなく、海外旅行でより多くの物が買えたり、輸入品が安くなったりするメリットがあるからだ。
為替は競争力の尺度の1つにすぎない
しかしインドにとって理想的なのは、強くも弱くもない「ゴルディロックス・レート」(適正水準のレート)である。これはあくまで市場原理が前提で、RBIは他国通貨に対し、秩序ある相場維持のためだけに為替介入する。為替レートはあくまで競争力の1つの尺度にすぎない。むしろ重要なのは生産性である。
インドの輸出を増やそうとするなら、よりよいインフラで生産し、よりよい教育機関で人材を育成し、不公正な規制を緩和することが不可欠だ。
「どの産業を奨励するか」とよく聞かれるが、特定産業を奨励するのは、その産業をダメにすることだと私は答える。政策立案者としての私の仕事は、あくまで企業活動をスムーズにする基盤作りであり、その方向を指図することではない。
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