過労死ラインの残業、「違法」と「合法」の境目 ブラック企業「社名公表」初事例から学ぶこと
100時間を超える残業は過労死の危険性があるという過労死ラインがありながら、他方ではそれを超える残業を可能とするような36協定の提出が法的に許容されている現実がある。
また、「特別条項」は、繁忙期や緊急時など、やむにやまれぬ事情があった時に限って発動できるというのが法律上の本来の趣旨であるが、「特別条項さえあれば、年6回までは当然に限度を超えて残業させられる」と誤解をしている経営者や人事担当者がいることも懸念されるべき現状である。
自衛をするためには
労働者がどう自衛できるかといえば、36協定の締結を拒否することだろう。会社と労働者、双方の代表者が合意をしてはじめて成立するものであり、労働者代表が「こんな長時間の残業を可能とするような36協定には署名押印できない」として、36協定に署名押印をしなければ、会社は法定労働時間を超えて残業をさせることが不可能となる。
その結果、残業時間の上限を減らすなどして、労働者側と再交渉をせざるを得なくなるわけだ。残業は会社の命令により当然に行われるものではなく、法律上の大原則は「残業禁止」だが、36協定により労働者側の同意を得られたからこそ、会社は限定的に残業を命じる権利を得ているに過ぎないのである。
とはいえ、実務上は、会社と労働者の力や知識の差により、会社が作った36協定の書面を労働者代表に提示する形になることがほとんどなので、会社側から「ここに署名押印してくださいね」と言われると、労働者代表が内容をよく見ないまま、何となく署名押印をしてしまうということも少なくないようである。
労働者代表がよく見ないまま署名押印をしてしまった36協定が、月に100時間や200時間の残業を認める内容になってしまっていることもありうるわけだ。労働者代表は従業員の互選により挙手や投票など民主的な手続きを経て選ばれる必要があるが、会社に従順な従業員が一方的に指名され、署名押印をするというように、適切に選ばれていない労働者代表が36協定に署名押印をしているケースもある。
たとえば、2012年度にワタミで新入社員が過労死した事件の際、東京新聞は次のように報じていた。
「親会社ワタミの法令順守部門を担当する塚田武グループ長は『店長がアルバイトの中から代表を指名し、協定届に署名させている』と、手続きが形骸化していたことを認めた」(東京新聞 2012年5月17日)
このように36協定が「形骸化」している実態が、長時間労働を助長している側面は否定できないであろう。違法な長時間残業はもちろんのこと、形のうえでは合法であったとしても、健康に害をもたらすほどの残業を防止するためには、働く人が「36協定」についてもっと意識を持つことが重要である。
根本的にはそれだけ長時間残業をしなければならないという職場環境自体を改善するため、仕事量に応じた適正な人員を配置したり、業務の効率化や取捨選択を図ったりしながら、労働時間を短縮する仕組みを作っていくことがより重要であろう。
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