九州新幹線の全線開業をめぐっては、多様な見立てが存在する。例えば、食を通じた鹿児島市の開業対策などに携わった福岡市のバリュークリエイター・佐藤真一氏(バリュー・クリエーション・サービス代表取締役)は今年2月、筆者がファシリテーターを務めた北海道新幹線セミナー(北海道経済産業局主催・札幌市)で、旅客データの分析結果に基づき「最も集客に成功したのは福岡」と指摘した。
九州新幹線をめぐっては、熊本・鹿児島両県に視線が向きがちだが、福岡県への恩恵は決して小さくないようだ。先に紹介した九経調のリポートも、JR博多シティなどが整備された結果、博多地区が従来のオフィス街としての顔に加えて、市内で天神地区に次ぐ第2の商業中心地となった経緯に注目している。
今は地震の終息がカギ
もちろん、他の整備新幹線沿線と同様、喜ばしい変化ばかりが起きた訳ではない。鹿児島市内では、中央資本の多い鹿児島中央駅一帯の開発が加速する半面、地元資本の商業・宿泊機能が集まる天文館地区が相対的に衰える事態への懸念も聞かれた。
経営難が続く並行在来線・肥薩おれんじ鉄道(新八代~川内、116.9km)は、2014年度決算で累積赤字が14億円余りに膨らんでいる。
大分大学経済学部の大井尚司准教授は、2016年3月の九経調月報への寄稿で、「選択と集中」をキーワードに九州一円の変化を読み解き、新幹線の料金や停車駅設定、観光列車の設定、駅の立地、競合交通機関の運行水準の変化によって、結果的に新幹線の恩恵の及ぶ範囲が特定地域に偏っている可能性があることなどを指摘し、「九州全体の持続可能性を考えると、ネガティブな影響をもたらしている部分も少なくない」と警鐘を鳴らしている。
ともあれ、今は何より、一連の熊本地震の行方が気掛かりだ。熊本市は中心市街地の再開発が進む一方、熊本駅周辺の連続立体交差事業が進展中で、駅一帯の整備はこれからが本番だ。大分地域も、観光客の激減が伝えられている。余震の終息なしには、九州新幹線の5年目の検証どころか、九州の将来像そのものが見えにくい。
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