九州新幹線で「最も恩恵を受けた地域」は? 開業から5年、地震乗り越え経済効果は大

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全線開業を祝う看板=熊本市下通町(2016年3月、筆者撮影)

部分開業の時点から新幹線を歓迎していた鹿児島県とは対照的に、熊本県は地元の悲観的な空気が、全線開業を境に一変した。

一部の経済関係者は部分開業の直後、「熊本市は九州の地理的な中心。全線開業を契機に熊本市が復権する」という見方を示していた。だが、多くの地元関係者はため息混じりに「熊本県が素通りされるのでは」「福岡の影響力が心配」「地元にとって期待が持てない全線開業」と漏らしていた。

結果的には、地元の不安は半ば杞憂に終わった。今や全国トップ級の人気を誇るマスコットキャラクター「くまモン」の誕生や、関西からの誘客などを図る「KANSAI戦略」が奏功し、観光産業を中心に、地元に恩恵が及んだ。

地方経済総合研究所は2014年3月、宿泊客の増加に伴う2013年3月~2014年2月の経済波及効果が219億円に達したというリポートを公表した。筆者が2014年9月に行ったヒアリングによれば、人の移動は新幹線にとどまらず、広島ナンバーや岡山ナンバーの乗用車が観光地の駐車場で目立つようになり、新幹線開業を契機として、広範な交通手段による人の移動が始まった可能性があるという。

今回のヒアリングに先立って、南九州では大きな変化が起きていた。地方銀行の肥後銀行(熊本県)と鹿児島銀行が2015年10月、経営統合を果たした。両行はもともと交流があったというが、九州新幹線の全線開業によって熊本・鹿児島両県の一体感が強まったことで統合ムードが加速した、と両県の経済関係者は証言する。

定期券利用者が19%も占めた

国土交通省の鉄道輸送統計年報(2014年度分)によると、九州新幹線は2014年度、1310万人の旅客を運んだ。この数字は北陸新幹線(高崎~長野間)の1201万人をやや上回るが、大きく異なるのは定期券の利用者数だ。

定期券以外の利用は、九州が1066万人、北陸が1056万人とほぼ変わらないが、定期券利用者は九州が245万人で18.7%を占めたのに対し、北陸は146万人で12.2%だった。北陸新幹線の金沢開業に伴い、北陸の現状は大きく変わっている可能性があるが、九州新幹線が通勤・通学の足として定着している様子を象徴する数字といえる。

九経調・大谷氏もリポートで、九州新幹線の定期券利用者が2015年3月末現在、最も多い博多~熊本間で595枚に達するなど、事前の想定を上回る通勤・通学需要が発生したことを報告している。

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