訪問は、九州新幹線全駅の現状確認と、一連の開業効果を調査してきた九州経済調査協会(福岡市、略称・九経調)、地方経済総合研究所(熊本市)、鹿児島経済研究所(現・九州経済研究所、鹿児島市)の3シンクタンクへのヒアリングが主な目的だった。
九経調は、大谷友男・調査研究部主任研究員が中心となり、2016年3月の「九州経済調査月報」にリポートを公表していた。他の2研究所は、5周年を契機として新たな調査に着手しつつあった。
ひと駅ごとに降車して旅客の乗降状況や駅周辺を観察するうち、現地でなくては把握できない空気感が伝わってきた。小規模な駅でも一定の通勤・通学需要があること、列車によって乗車率に大きなばらつきがあること、市街地や在来線駅から離れた駅の中には、交通の結節点として苦戦しているケースもあるらしいこと、博多駅や鹿児島中央駅の一帯が活気を増していること――。九経調の大谷主任研究員が指摘する「対東京という『ドル箱』の需要がない宿命ゆえに、ローカルからローカルの需要を拾い上げる」経営スタイル、そして沿線の効果が一様でない状況を読み取った。
鹿児島側から建設を開始したワケ
九州新幹線は1973年に整備計画が決定した「整備新幹線」の1路線だ。九州には開業済みの区間のほか、分岐して長崎へ向かう路線もあるため、正式にはそれぞれ「鹿児島ルート」「長崎ルート」と呼び分けられる。鹿児島ルートは東北新幹線・盛岡以北(盛岡~新青森)、北陸新幹線(高崎~大阪)と並行して工事が進み、整備計画決定から38年で全線開業にこぎ着けた。
他の整備新幹線は、最大の需要を見込める東京側から順次、建設工事が進んだ。しかし、鹿児島ルートは、沿線最大の都市・福岡側からではなく、終点の鹿児島側が先に着工し、部分開業した。主な理由は、在来線の鹿児島本線は南側にカーブが多く特急列車の速度を上げられないため、新幹線建設による時間短縮効果が大きいこと、そして、財源確保が難しい中で全線建設が頓挫しないよう、あえて需要の大きな博多側を後回しにしたとされる。
2004年の先行開業は、「鹿児島本線の南側の高速化」という、いわばローカル色の強い開業だった。それでも、今なお九州新幹線の顔となっている800系列車「つばめ」と在来線特急「リレーつばめ」の投入に伴い、3時間40分を要していた博多~西鹿児島(現・鹿児島中央)間は、新八代(熊本県)での乗り換えを挟んで2時間12分まで短縮され、主に観光面で鹿児島県内に多くの恩恵をもたらした。
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