開業に合わせて、JR九州は100億円を投じて鹿児島中央駅一帯を整備し、当時としては九州最大の駅ビル「アミュプラザ鹿児島」を建設した。以降、同駅周辺は、約1.5km東にある鹿児島市の繁華街・天文館地区に匹敵する商業エリアに成長した。
さらに、2011年の全線開業に伴い、博多~熊本間は所要時間が1時間13分から33分と半減した。熊本~鹿児島中央間は新八代での乗り換えが解消されて57分から47分に、博多~鹿児島中央間も同じく2時間12分から1時間17分となった。山陽新幹線直通の「みずほ」「さくら」運行によって、時間距離の短縮は新大阪以西全体に及び、新大阪~熊本間は3時間57分から2時間58分に、新大阪~鹿児島間は5時間2分から3時間42分に縮まった。
国土交通省の資料によれば、在来線当時の博多~熊本間の輸送人員は1日1万7900人だったが、開業4年目の2014年度には2万6300人へと47%伸びた。同じく熊本~鹿児島中央間は8500人から1万3600人へと60%伸び、いずれもJR九州が目指していた「40%増」をクリアした。
上記のほかにも、九州新幹線についてはさまざまなデータが公表されている。詳細な分析は割愛するが、大きなスケールでみれば関西や山陽地域から南九州への旅客流動と、九州島内の流動がともに活発化したことは間違いない。
潜在需要の掘り起こしに成功
2014年時点で鹿児島経済研究所が実施したヒアリングによると、地元では「新幹線が良い効果をもたらした」という評価が一般的で、県外から多くの観光客が流入する一方、購買力の流出はほとんど見られなかったという。
観光客は、山陽新幹線沿線からほぼ満遍なく流入し、専ら首都圏の巨大な需要に依存しがちな東北新幹線とは対照的だ。また、鹿児島市から福岡市が日帰り圏内となったことで、経済関連のセミナーやビジネス交流の機会が広がったという。
沿線の潜在需要の掘り起こしに成功した理由については、九州各地の研究者との意見交換を通じて、いくつかの仮説ができた。例えば、現在、観光客の主体は中高年以上の層とみられるが、特に岡山や広島、熊本、鹿児島の各空港は市街地から遠い事情もあり、航空機利用は体力的にも心理的にもハードルが高い。
このため、「飛行機に乗る必要がない」こと自体が、気軽に旅行する意欲を高めた可能性がある。筆者が青森県で行った調査でも、新幹線の開業は住民の遠出の意欲を高めることが確認されており、有力な仮説といえよう。
同じく2014年に鹿児島県庁で行ったヒアリングによれば、県としては、全線開業の意義を「鹿児島県が高速交通体系に組み込まれたこと」と位置付けるとともに「九州の南北の一体感が強まった」と指摘していた。
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