横浜ゴム、買収は割高でも「ラッキー」だった どうしても手中に収めたかった理由とは?

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アライアンス社が保有するブランドは大きく分けて3つ。主力の「アライアンス」は1950年にイスラエルで設立された企業によるもので、欧州市場に強い。「ギャラクシー」は1970年代に立ち上げた米国の販社によるブランドで、建機用を中心に拡大し、現在は農機用も強い。「プリメックス」は北米の林業用タイヤが中心。こうした欧米の販路を活用する考えだ。

アライアンス社の創業者で株主のヨゲシュ・マハンサリア氏は「農業分野、林業分野のタイヤとして世界のリーダーの一角を占める目標に近づいた」と、横浜ゴムのノウハウやリソースが得られることによる、さらなる拡大に期待を示した。

横浜ゴムは今回の買収により、3年後をメドに営業利益ベースで1500万ドルのシナジー効果を見込む。まずは販路の活用だ。 特に期待するのは北米における販路。また、原料などを横浜ゴムが供給することで生産能力の充実も図れるとみている。さらに、物流拠点の相互利用で効率を向上させる。共同購買なども進める構えだ。

買収金額が膨らんでも「ラッキー」

1300億円を超える買収資金は、自己資金と銀行からの借り入れで対応する。横浜ゴムは独禁当局の審査を待ち、7月をメドに買収を完了する予定だ。

アライアンス社株の87.5%を保有するのは投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ ロバーツ(KKR)グループ。過去に LBO(相手先資産を担保にした買収)の手法で大手食品タバコメーカーであるRJRナビスコを買収し、その名を轟かしたファンドだ。

横浜ゴムにとって、大手投資ファンドとの買収交渉は初めてだった。「条件や価格についてはたいへん厳しい要求があった」(山石昌孝取締役)といい、足元の低い最終利益の水準(前期実績3900万ドル)から、1300億円を超す買収金額は「やや割高ではないか」という市場関係者の声もある。それでも、横浜ゴム経営陣からは「ラッキーだった」との声が聞かれた。課題だった生産財タイヤの拡充が一気に進む案件だからだ。

買収が実現した場合、連結化するのは今下期になる。のれん償却の影響もあるため、今期の利益貢献は営業利益段階で数十億円程度の上乗せにとどまるとみられる。景気に左右されないニッチな高収益事業を手にした横浜ゴムは、中長期で大きなプラス効果を生み出せるのか。今後は「割高」との声をはね返す成果が求められることになる。

山内 哲夫 東洋経済 記者

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やまうち てつお / Tetsuo Yamauchi

SI、クラウドサービスなどの業界を担当。

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