カルシウムイオンが「眠り」を導くことが判明 東大・上田教授のグループが初めて明らかに

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上田泰己(うえだ・ひろき)東京大学大学院医学系研究科教授。機能生物学専攻システムズ薬理学教室。1975年生まれ。2003年大学院生の時に最年少で理化学研究所チームリーダーに抜擢。

それがカルシウムイオンを流入させる電位依存性カルシウムチャネル、NMDA型グルタミン酸受容体、カルシウム依存性カリウムチャネル(以上3つはカルシウムイオンを細胞内に取り込む働きをする)、カルシウムポンプ(カルシウムイオンを細胞内から排出する働きをする)の4つで、睡眠時の脳波に現れる深い眠りを表わす徐波(θ波)の形成に必要と予測した。

この予測をもとに、カルシウムイオン関連経路に含まれる7つの遺伝子を働かなくしたマウスを調べたところ、予測通り、はじめの3つに関連する遺伝子を働かなくしたマウスは眠らなくなる一方、4番目の遺伝子が働かないマウスでは睡眠時間が増えることがわかった。また、このカルシウムイオンの出入りをコントロールするスイッチの働きをするのがCamk2b、Camk2aという2つのタンパク質であることもわかった。

眠りの異常がある病気の解明や治療に期待大

統合失調症やうつ、アルツハイマーやパーキンソン病など、ほとんどすべての精神疾患、神経変性疾患に共通して、眠りの異常があることがわかっており、「こういった疾患の理解や診断、治療につなげていくことができるのではないか」と上田教授は期待を寄せる。

上田教授は体内時計の遺伝子ネットワークの解明や、マウスの全身を透明化するなどの研究で知られるが、今回の論文が「今まで20年間で一番いい論文」と自信をのぞかせる。細胞を興奮させると考えられてきたカルシウムイオンが眠りを導くという逆転の発想を得たのは、2012年の米国ボストンでの睡眠学会だという。

同行した砂川玄志郎博士(理研研究員)と滞在中「睡眠物質はあるという前提は必要なのか」と議論を続け、「睡眠物質はない」「覚醒物質が働いた分の記憶を残しているのではないか」と考えたところから、2013年には理論化し、実験を開始したという。

また、この研究のために、短期間に大量のノックアウトマウスを作製するゲノム編集法「トリプルCRISPER法」や、呼吸から眠りを測定する方法「SSS(Snappy Sleep Stager)」、脳を透明化してすべての細胞をみる手法などを新たに開発し、論文化している。
 

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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