(第17回)<中江有里さん・後編>母がいじめを解決してくれた

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●いじめられた子どもといじめられた先生

 小説『納豆ウドン』の中に出てくる先生は、私が小学校のときの先生がモデルです。日航機の事故で私の通っていた学校の先生が亡くなったのです。音楽の先生でした。みんながその先生をすごく好きだったので、その後にきた先生というだけで受け入れられなかったのです。みんなでいじめて、先生は辞めていっちゃったんです。それがものすごく気になっていました。
 若い先生だったのですが、可愛くてとても一生懸命でした。みんなの気持ちをつかもうとして。しかし、やっぱり複雑な状況で先生を受け入れてしまったので、男の子なんか本当にひどかったですからね。そのことを思い出すと、今でも「先生はどうしているのかな?」と思うことがあり、あの先生の「その後」を書きたかったんです。実際にどうされているかわかりませんが、こうあってくれたらなぁという願いも込められています。

 『結婚写真』では少女、『納豆ウドン』では先生という二人のいじめられた人間が登場します。私はいじめというのは、必ずしも強いものが弱いものをというわけではなく、数の原理というのもあると思うのです。先生のように、ある意味クラスの中で絶対的な権力を持っていながら、生徒にいじめられてしまうこともあるのだから。日本の場合は年上の方を敬うという文化があります。生徒同士だと先輩には絶対服従といったことが体育会系だとありますよね。でも、学校の中では、生徒が自分よりはるかに年上の先生を馬鹿にしたりすることが起こりえます。

●もし、先生になったら

 役では、小学校の先生を演じたことはあります。けれど自分では……。そうですね、なりたくないですね。
 ただ、今、私には子どもはいませんが、もしかしたら親になるのと同じなのかな……と。多分、上辺だけでは通じないのだろうと。やっぱり自分が体を張って教えていかなければいけない。それを職業にするわけですからね。親の場合は愛情も含めて義務のようなものもあると思いますけど、先生の場合はそうではないから、ものすごくエネルギーが必要だと思います。
 わかってくれる子どももいれば、わからない子どももいるだろうから大変なことをやってるのだなあ、と。もっといろんな意味で尊敬されるべきじゃないかと思いますね。

●子どもの頃の印象に残る一冊

 子どもの頃に読んだ本でとても印象的な本があります…それは、『家なき子』。暗いでしょ(笑)。小学校5年生くらいのときに、ちょうど両親が離婚したばかりで、精神的に不安定だったのです。そのとき、自分が必要とされてないんじゃないかと思っていたのです。今まで当たり前に家には両親がいたのに、突然お父さんの元にいくか、お母さんの元にいくのかみたいなことってすごく大きくて。両方とも私のことを必要でなかったらどうしようかと思ったり。この本のタイトルが自分と重なり、内容というより置かれた状況で、すごく自分という人間を客観的にみることができたからこの本は印象に残っているんでしょうね。本を読むと、そういうことってありますよね。

 映画でもいいし、テレビでもいいのですが、本というのは自分の想像力を駆使しないと楽しめない、読めない。だから余計に心に響くものがあると思います。映像として与えられる情報でなく、自分の中で築きあげていく作業が、読書にはすごく必要です。自分独自の考え方とか、自分自身がどう思っているのかを試されるんですよね。
 『結婚写真』の次回作? 次は同世代の女性の話を書きたいですね。今、少子化といわれているのは、ベビーブームと言われた時代の私たちが、子どもを産んでいないというのが理由の一端としてあげられます。生活が多様化し、子どもがたくさんいる人も、バリバリ独身で働いている人もいるし、私のように結婚をしても子どもを持たないでいる人もいる。でも、みんな悩んでいるんですよね。そうしたものを上から見るのでも、下から見るのでもなく、同世代として描けたらいいなと思っています。
(取材:田畑則子 撮影:戸澤裕司

中江有里<なかえ・ゆり>
女優、脚本家。1973年生まれ。大阪府出身。
1989年に芸能界デビュー。NHK連続テレビ小説『走らんか!』や大河ドラマ『義経』、映画『ふたり』『学校』『風の歌が聴きたい』など、多数の作品に出演。2002年『納豆ウドン』でBKラジオドラマ脚本コンクールで最高賞受賞。脚本家としても活動を始める。現在は、NHK-BS『週刊ブックレビュー』で司会も務める。
著書に『結婚写真』(NHK出版)。
http://www.yuri-nakae.com
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