財布の中身の奪い合いから、個人の時間を奪い合う時代--林野宏・経済同友会消費問題委員会委員長(クレディセゾン社長)
--販売現場で最も重要なノウハウを自ら手放していたと。
そのとおりです。昔は機能分担がはっきりしていたわけ。2次問屋は流行を見ながら、それに見合った商品をつくる。百貨店サイドは、場所の提供と販売力と顧客を呼んでくる企画力、これがあった。企画力、販売力、それから場所。この三つがそろっていたのですが、そのうちいちばん失せたのが販売力ですよ。
百貨店の社員に販売のプロがいなくなって、派遣社員とかパートといった人たちがモノを売っている。百貨店の社員に聞いてもよく知らないのですね。一方で、大量にお客を集めてくる販売促進力とか宣伝力とか企画力が機能不全となってしまった。催事企画もおもしろくないから、お客が来ない。場所を貸すだけだったら、単なる不動産業ですよね。
昔は商品を置いておけば売れていたので、こういった取引形態が出来上がったのでしょう。高度成長で国民の可処分所得が増えていた時代はそれでよかった。しかし、これは商売ではない。大切なのは、何をどれくらい仕入れるか、いくらで売るか、売れなかったらいくらまで値下げするのか、という最終処分案を決めること。ここまで行うのを、商人と言うと思うんですね。
--豊かになりましたが、顧客は生活に満足していない……。
1人当たりのGDPは右肩上がりになっていますが、生活満足度は右肩下がりになっています。物質だけでは満ち足りない、国民の価値観の変化が表れている。そこに出てきたのが、時間価値です。現代社会は、与えられている自分の時間、いわば可処分時間が、可処分所得よりも重要なんですね。今までの高度経済成長とか、大量消費がヘゲモニーを握っていた時代というのは、財布の中身の奪い合いだった。それが、個人が持つ時間の奪い合いに変わってきたのですね。つまり、可処分時間を効果的に利用する商売、時間を売る商売が勃興してきた。
たとえばリースマンション、カーシェアリング、駐車場やマッサージ、理髪店も10分単位。時間を切り売りして、それを商売にする。顧客側から見ると、時間も節約できるし、おカネも節約できる、商品やサービスがどんどん増えてくる。時間とおカネがミックスされて商品に変化していく時代ですね。