電炉に強まる逆風、原料高と高炉の侵食

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 電炉メーカーを苦しめるのは需要減少ばかりではない。原料であるスクラップの価格も上昇傾向だからだ。スクラップは日本や米国など先進国でしか発生しないため、国際商品としての性格が年々強まっている。そうした中、中国の内需刺激策を追い風に、東アジア諸国の鉄鋼メーカーが、日本のスクラップを買いあさっている。

高炉メーカーがスクラップの調達を本格化させていることも、電炉メーカーに追い打ちをかけている。高炉メーカーはたやすく休止できない高炉を再稼働させるのでなく、スクラップの配合率を上げて増産につなげている。このように電炉メーカーを取り巻く環境は、徐々に厳しさを増しているのだ。

5年ぶりのシェア逆転

その象徴といえるのが、建設用の鉄骨資材として使われる「H形鋼」のシェア逆転劇である。新日鉄は04年4月以来、5年2カ月ぶりに東鉄からH形鋼の首位の座を奪い返した。

新日鉄はコスト面での余力も手にしている。スクラップ価格が上昇している東鉄に対して、新日鉄が原料とする鉄鉱石と原料炭の今年度価格は、世界的な需要減退を背景に、鉱山会社との間で過去最大の値下げ幅で決着した。

鉄鋼商社関係者によると、新日鉄は「価格を落としてでも案件を取りにいっている」と攻めの姿勢のようだ。H形鋼のシェア逆転劇もその結果とみられる。一方、H形鋼シェアで首位の座を追われた東鉄は、8月のH形鋼価格は前月価格を据え置いた。「(量を取りにいって)価格を下げれば市場が混乱する。スクラップ価格も上がっており、しばらくは状況を見極めたい」(大堀直人常務)と、当面は静観の様子だ。

電炉各社の業績は、第1四半期では前期の契約残が下支えする見込み。だが、足元の需要低迷と原料高は、今後半年の生産にこそ響いてくる。「電炉を取り巻く環境は、台風警報が発令され、目の前まで台風が迫っている状況」(前出の商社関係者)。底打ちの兆しが見えつつある高炉メーカーと対照的に、電炉メーカーの先には暴風雨が待ち構えている。

(猪澤顕明 撮影:吉野純治 =週刊東洋経済)

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