上場維持の土俵際 IHI懺悔と再生

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--社内委員会の調査報告書で示された事実は驚きだ。なぜ、ボイラーは能力の倍の受注を取ったのか。

結果的に工事が集中した。事業部と営業部門が並立し、営業の力が強かった。事業部も、大事な顧客の仕事は「取りたくない」とはなかなか言い出せなかった。最終段階の建設工事は関連会社を通じての仕事になるため、社内の能力を斟酌していなかったところがある。

--調査報告書には「事業本部は本社にコミットした利益目標を守ることを何より優先した」とある。中期計画の「グループ経営方針2007」(09年度経常利益目標600億円、06年度実績215億円)がプレッシャーになったのではないか。

利益目標は事業本部もそれでやれる、としていた。競争力の認識に齟齬(そご)があったり、受注後のコストダウン施策が実現できなかったり、複数が重なった。言い回しが誤解されると困るが、私どもの事業本部制は分権的に運営している。業績見通しや決算は事業本部が提出し、財務部で取りまとめるが、事業本部が「できる」と言ったら、よほどの異常がない限り、財務部はチェックできない。

--07年1月の公募増資の前に、業績悪化の認識はなかったのか。

夏から秋にかけて全社的に利益計画を総点検するが、06年秋の総点検で変化は見られなかった。07年1月の公募の前に、12月までの業績見通しをあらためて精査した。この時点では事業本部も財務部も変更なし、という判断だった。変調が現れたのは、2、3月になってから。

--かつては土光敏夫(元経団連会長)、真藤恒(元NTT社長)というカリスマ社長の下、トップ個人に依拠し、かねてから組織性が脆弱と言われる。

過去のことは承知しないが、00年ごろまで、事業本部の決算は財務部の決算とは別の緩い基準を使っていた。それを同じ基準に統一し、事業本部がきちんと決算に責任を持つ体制に改めている。今回のような事態を再発させないために、一時的に本社のコントロールを強め、財務部が事業部の情報を直接収集・確認できるようにする。決算につなげられる数字とそうでない数字(事業部の希望的見通し)を峻別し、保守的に見る姿勢を浸透させたい。

--中期経営計画の利益目標は堅持すると方針を変えていない。

エネルギー・プラント部門以外の業績は順調だ。もともと、問題になった工事は07年度には終了する。だから、谷は深くなったが、着地の旗は降ろす必要はない。エネルギー・プラント部門については、今後、セメントはよほど好採算の案件以外、やらない。ボイラーもリスクのある工事、海外工事はやらない。プラントは知らない国、知らない客、知らないベンダーとはやらない。

今は、自分たちの足元を固めることが第一。船舶については一般論だが、大競争の時代、リソースが大きいほうが対応できるとは思う。が、これも当面、手持ちの4年分の仕事を粛々とやる。

株主の皆様には、こういう事態になり、大変申し訳なく、お詫び申し上げたい。株式も監理ポスト指定になっているが、できるだけ早く指定を解除していただけるよう、東証に対して誠実に対応していきたい。

(撮影:今井康一)

梅沢 正邦 経済ジャーナリスト

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うめざわ まさくに / Masakuni Umezawa

1949年生まれ。1971年東京大学経済学部卒業。東洋経済新報社に入社し、編集局記者として流通業、プラント・造船・航空機、通信・エレクトロニクス、商社などを担当。『金融ビジネス』編集長、『週刊東洋経済』副編集長を経て、2001年論説委員長。2009年退社し現在に至る。著書に『カリスマたちは上機嫌――日本を変える13人の起業家』(東洋経済新報社、2001年)、『失敗するから人生だ。』(東洋経済新報社、2013年)。

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