極北クレイマー 海堂尊著
舞台は市政の失敗から財政赤字で寂つく極北市の市民病院。身勝手さで好勝負の市長と院長、気まじめとダメが入り混じる医者と看護師たち、そしてわがまま患者とくれば物語は半分成功したようなものだろう。
そこに謎のハケン女医と医療事故事件化を企む謎の女性ジャーナリストが現れてと、話はてんやわんやの転回の中、破局または大団円へともつれ込む。下手すれば欲張りすぎのおそれがあるところだが、大きな破綻も小さな瑕疵(かし)もまるで気になることもなく、説明不足は余韻とも取れるところはさすがというべきか。
登場人物がそろって個性的で、戯画化された人物像が笑いを呼ぶとともに医療の現場の問題点を鮮明化するのにも一役買う。誇張した描写の中から医療の荒廃とその原因を考えたりもさせられる第一級エンターテインメント小説だ。医療行政批判も鋭く、何より医療評価機構が本物そっくりに登場して重要な役割を演ずるのは見ものである。(純)
朝日新聞出版 1680円
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