なぜスクールロイヤーを「チーム学校」の一員に?

琉球大学教育学部附属中学校(以下、琉大附属中)では、毎週火曜日に行う生徒支援委員会に、2019年秋からスクールロイヤーが参加している。琉大附属中がある事案において法的アドバイスを必要としたことがきっかけで、チームを組むことになったという。

この取り組みは20年度から琉大法科大学院と琉大教職大学院の協働による実践研究(科学研究費助成事業)となっている。現在、弁護士資格を持つ琉大法科大学院の武田昌則教授と沖縄県で弁護士として活躍する横井理人氏がスクールロイヤーとして、さらに同大学院で憲法を教える西山千絵准教授がスクールパラリーガルとして、生徒支援委員会に参加し、現場対応に当たっている。

生徒支援委員会は、校長や教頭、生徒指導主任、養護教諭、各学年の代表教員、スクールカウンセラーで構成され、直近の困り事や生徒たちの情報を共有する。そこにスクールロイヤーが加わったことで、「懸念事項について第三者として法的な助言をいただけるので、トラブルに発展する前段階で適切な対応ができていると思います」と比嘉智也校長は話す。

琉大附属中の生徒支援委員会は毎週火曜日に会議を開いている

近年、教育現場では虐待やいじめのほか、学校や教育委員会への過剰な要求、学校事故など、諸問題は深刻化・多様化し、教員だけでは解決が困難になりつつある。

そのため、スクールロイヤーがトラブルになる手前で関与できれば教員の負担軽減にもつながると考えられ、文科省は20年度から全国の教育委員会にスクールロイヤーの配置を後押ししている。しかし、教員がスクールロイヤーに相談しやすい仕組みは整っていないのが実情だ。

その点、琉大附属中はスムーズな連携が取れる体制になっているという。「同じ敷地内に私と西山がいる法科大学院と附属中の校舎があるので半分常駐といえますし、チームとして毎週顔を合わせることでお互いに心理的距離感も縮まり、先生方から直接気軽にご相談をいただけています」と、武田教授は言う。

「SNS肖像権侵害」や「校則改正プロジェクト」にも対応

琉大附属中のスクールロイヤーが助言、サポートする事案としては、学校事故や生徒指導、保護者対応などが多いという。

中でも大きな事案としては、SNS上での肖像権侵害のケースを挙げる。コロナ禍のオンライン授業中、ある生徒がスクリーンショットをしてその画像をSNSに無断掲載してしまった。そこには同級生の顔が映っており、保護者からの相談で問題が発覚。実態調査をする中で教員も被害対象になっていたことが判明した。

学校としてはこれ以上画像が拡散されては困る。しかし、被害を受けた生徒としては、問題を大きくして仕返しをされたら嫌だという気持ちがあるだろう。そこで、いきなり加害生徒に指導するのではなく、まずは西山准教授が「肖像権の権利者意識を持つ重要性」を啓発する講演を校内で実施。生徒たちの肖像権への理解が深まった段階で、加害生徒とその保護者にアプローチする方法を取った。

「スクールロイヤーの助言に基づき、解決に向けてしっかり手順を踏んだことで事態が収束に向かいました」と、比嘉校長は振り返る。

もう1つの成果事例が、校則改正プロジェクトだ。「生徒の要望だけでなく、教員としても指導しにくい校則があり、2021年度中に取り組みたい事案だった」と、生活指導主任の城間富秀教諭は話す。各学級の生活委員の生徒たちを集め、校則について話し合うプロジェクトチームを立ち上げ、西山准教授と横井氏も加わった。

「先生たちが変だと感じたり、指導しにくかったりする校則について生徒たちの意見を聞き、文言の書き換えを助言していただきました。例えば女子の制服、男子の制服と表記されていたものをスカートの制服、ズボンの制服に改め、男女問わずどちらでも選択できるようにしました。実際、早速ズボンの制服を購入して着用している女子生徒がいます」(城間教諭)

現生徒会副会長の1年生(写真右から2番目)は、校則改正プロジェクトの始動に触発されたこともあり、生徒会役員選挙で校則改正を公約に掲げた

スクールロイヤーチームは、リーガルチェックをし、生徒も教員も解釈に困らないようあいまいな表現を避けるなどの配慮をしたという。

琉大附属中とスクールロイヤーを仲介した琉大教職大学院の吉田安規良教授は、「教員はもちろん、生徒たちのリーガルマインドの育成に大きく寄与したと思います」と、校則改正プロジェクトを評価する。

今後は携帯電話の使用方法などを見直していくとともに、「髪形や眉、シャツの着方、スカートの長さなど、できるだけ生徒たちが考えて、自律的に守れる校則を作れるよう改正作業を進めていく」(城間教諭)意向だ。

スクールロイヤーを広める仕組みづくりや人材育成が課題

琉大附属中の生徒支援委員会のように、養護教諭やスクールカウンセラーといった専門家だけでなく、「チーム学校」の一員にスクールロイヤーも含むメリットについて武田教授はこう語る。

「仮に暴行を受けた生徒がいたとしましょう。養護教諭はその傷痕をつぶさに観察します。一方、加害生徒は都合のいいうそをつくことがあります。スクールロイヤーは事実認定の訓練を受けた法律の専門家ですから、養護教諭から聞いた傷痕の状況と加害生徒の言い分をすり合わせて、うそを見抜くことができます。適切な対応方法も助言できるので、先生方は自信を持って今後の方針を立てられます。連携の中でいじめの兆候が見てとれる場合なども、被害生徒や学校に証拠保全の指示を明確に出せるので、学校は万が一の際に適切な対応ができるはずです」

実際、琉大附属中では今のところトラブルを未然に防ぐことができており、深刻な事案であっても大きなトラブルに発展したケースはないという。比嘉校長は、この2年余りのチーム対応の経験から、早めの相談が重要だと強調する。

「私も以前は公立校や行政側にいましたが、多くの場合、学校で何か問題がこじれてから教育委員会に相談し、初めて弁護士が関わる対応になっているかと思います。しかし、早い段階で教育委員会やスクールロイヤーに相談を持ちかけるほうが落ち着いて対応でき、未然にトラブルを防ぐことができます。本校のように常駐に近い形など、公立もスクールロイヤーに早期から相談できる仕組みが整うとよいと考えます」

城間教諭も公立校にいた経験を踏まえ、スクールロイヤーがチーム学校の一員として関わることが望ましいと考えている。

「幸い本校では経験がありませんが、教育現場では、児童相談所や警察、市役所の福祉課や児童課につなぐべき事案が出てくる場合があるので、どの学校でもスクールロイヤーと話せる場があるといいと思います。多くの公立校も生徒支援委員会のような会議が定期的に開かれているはずなので、まずはそこにスクールロイヤーが参加する機会ができるとよいかもしれません」

スクールロイヤー活用の仕組みについて、武田教授も次のような提案をする。

「沖縄県で行ったアンケートでは、スクールロイヤーは必要ないという回答も多かったのですが、それはスクールロイヤーがどういう存在なのか知らないからだと思います。例えば試験校として、ある学校に1カ月くらい常駐でスクールロイヤーを関わらせてみる。その成果を広めていくことで、スクールロイヤーの機能や役割が理解され、活用につながっていくのではないかと思います。対価を受け取らなくてもスクールロイヤーをやってみたいという弁護士は意外といるので、公立でも予算を気にせずトライできるのではないでしょうか」

一方、スクールロイヤーも学校現場をよく理解していないのが現状だ。スクールロイヤーを担当しても、学校にとって有効な助言や提案ができるとは限らない。だからこそ、スクールロイヤーが学校現場に関わることは、双方の理解を深めるうえでもメリットになるといえそうだ。実際、武田教授は「毎週顔を合わせることで、先生方が抱える悩みを知ることができるようになりました」と話す。

吉田教授も、次のように期待する。

「附属学校には、最先端の教育実践研究を行う先進研究校と、地域に成果をフィードバックするモデル校という役割があります。本学附属中の先生方は公立校との人事交流でいらっしゃっているので、公立校にお戻りになった際にここでの経験が生き、スクールロイヤーの活用もいい方向に進むのではないでしょうか」

ただ、「今後、生徒や保護者から直接相談があった場合、どう対応していけばよいのか。学校内での利益相反は課題です」と、武田教授は漏らす。学校現場に適切に助言できる人材の育成も課題で、琉大法科大学院では、琉大教職大学院と連携してスクールロイヤーの養成もスタートさせている。講義形式の「子どもの教育と法」は、2021年度後期に授業科目として実施。法科大学院の学生が附属学校の現場を訪問して臨床的な実習を行う「スクールロイヤークリニック」も、22年度前期から臨床科目「クリニック」の一内容として希望学生を募って実施する予定だ。

子どもの最善の利益を図るスクールロイヤーのあり方や体制はどうあるべきか、模索は続く。

(文:田中弘美、写真:琉球大学教育学部附属中学校)