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経済成長理論の大御所が受賞した2025年ノーベル経済学賞。「自薦」や、仏マクロン大統領らの「他薦」が実ったようにも見える

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ノーベル経済学賞を受賞するモキイア氏(写真:ロイター/アフロ)
12月10日、2025年のノーベル経済学賞授賞式が行われ、米ノースウエスタン大学のジョエル・モキイア氏、仏コレージュ・ド・フランスのフィリップ・アギヨン氏、米ブラウン大学のピーター・ホーウィット氏が賞を受けた。今回の受賞者が発表されて以降、経済成長の要因としての「イノベーション(創造的破壊)」に改めて注目が集まっている。
今回の授賞理由となった研究の解説、今回の授賞の意味づけや含意、ノーベル経済学賞のあり方まで、産業組織論を専門とし、著書に『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』があるカナダ・トロント大学の伊神満准教授に幅広く聞いた。前後編の前編。(以下、敬称略)。
後編:2025年ノーベル経済学賞とシュンペーターの関係
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──2025年ノーベル経済学賞をどのように見ましたか?

技術革新、イノベーションがどのように発生して経済成長をもたらすかというテーマに対し、大きな学術的貢献をした研究者らが受賞した。賞金の半分を受け取ったモキイアはイギリス産業革命の研究で知られる経済史家で、私も博士課程在籍中に、彼の論文をかなり読んだ。「なぜイギリスで産業革命が起こったのか、それはどのような条件によって促進され持続してきたのか」を記した研究がモキイアの最も大きな業績だ。

残りの半分を2人で受け取ったアギヨンとホーウィットは、マクロ経済学の経済成長理論という分野の研究者だ。彼らの貢献は、技術革新から経済成長が起こるという道筋を、理論的に示したこと。従来の分析枠組みと比較して精緻に、企業が競争しながら技術革新に投資し、それが経済成長へとつながっていく流れをうまくモデル化した。

経済学にとって根本的な問い

──博士課程時代にモキイアの論文を読んだとのこと。今回の受賞者らの研究は、経済学を専門的に学ぶならどこかで触れる、というイメージでしょうか。

欧米の経済の歴史を学ぶ場合は、産業革命とそのメカニズムを分析したモキイアの研究はど真ん中で出てくる。私自身はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のPh.D. 2年目、基礎コースで経済史を学んだ2008年ごろに教材として読んだ。

アギヨン&ホーウィットの研究は、マクロ経済学の経済成長理論を専門とする人ならほぼ必ず参照するのではないか。経済成長理論そのものはかなり専門性が高い分野だから、必ずしもすべての経済学者がよく理解しているわけではない。

とはいえ、イノベーションを研究している人は、マクロ以外の分野を専門とする経済学者にも多い。そうした研究者の間でも、アギヨン&ホーウィットの1992年の研究、つまり今回の主な授賞理由となった研究や、その続編に当たる一連の研究について自身の論文で言及する者は多い。

例えばミクロ実証の研究者が特許データの分析に取り組み、その結果を論文にまとめる際には、「なぜ私の特許の研究が重要なのか」を訴える必要がある。そういう時に、「アギヨン&ホーウィットのモデルが示す通り、競争とイノベーションは経済成長の源泉であるから、私の研究もまた重要なのである」といった語り口は、とても便利だ。アギヨン&ホーウィットの研究を、いわば「大御所のお墨付き」のような意味合いで引用するのである。

だから、アギヨン&ホーウィットの経済成長モデルそのものをきちんと理解している人は少ないものの、経済学をやっていれば皆それなりに見たことはある名前ということになる。

そもそもの話として、経済成長とはどのようなものか、人々の生活水準を向上させ、経済的な豊かさをもたらす技術革新がどこから来るのかというのは、経済学にとって根本的な問いだ。よって、経済成長とイノベーションは、特定の専門分野にとどまらず、経済学者一般にとって大きな関心事の1つでもある。

ただ、今回のノーベル経済学賞に関しては、受賞者の「選挙活動」が実ったというふうに見えるところもあったが……。

次ページここ数年のアギヨンの動きを見ると…
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