『果てしなきスカーレット』の大コケと『国宝』の興行収入記録更新が示唆する「テレビ局と日本映画の幸せな時代」の終焉

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09年の『サマーウォーズ』以降は、日本テレビが「ジブリの次」のクリエイターとして育ててきた。『踊る』のようなテレビの作り方で作る映画とは違い、日テレは細田監督のパトロンのような存在だった。新作の企画をサポートし、劇場公開時には過去作品をテレビで放送して、局を挙げてバックアップしてきた。

今回も、公開2週前から「金曜ロードショー」で『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『竜とそばかすの姫』が立て続けに放送された。ジブリ映画で日テレが培った、新作映画のバックアップ手法だ。

こうして『果てしなきスカーレット』はメガヒットが約束された映画、のはずだった。どんな内容かより何より、日本で最も力のあるテレビ局たる日テレがこれだけ推しているし、細田守ブランドは確固たる存在になっている。『TOKYOタクシー』でキムタクが主演し名匠・山田洋次氏が監督をしたとしても、『爆弾』が比類なき面白さで爆走していても、「細田守の新作」が1位でないはずがなかった。

スカーレット批評
SNS上には『果てしなきスカーレット』に対する厳しい内容の投稿が目立つ(画像:Xの投稿より)

私は連休中、風邪で寝込み、泣く泣く映画館に行くのを見送った。枕元のiPadで『果てしなきスカーレット』について世間の人々の感想を眺めると、ほとんどが失望投稿だった。口きたなくののしる人も目についた。「初日に行ったら観客は自分一人だった」とぼやく人もいた。失敗しないはずの映画が、失敗してしまったようだ。布団の中で細田守ファンとして打ちひしがれた。

映画界が極めて健全で真っ当な世界になった

どうやら、日テレがどれだけ推しても、人々の口コミにはあっさり敗退する。そういう時代になった。テレビ局はもう、映画をヒットさせる力などない。テレビ局が映画界を救ったのはまちがいないが、その頃のような関係ではもはやない。

「本物の映画」は、テレビ局の力に頼らなくても、驚くようなヒット作になる。そんな時代になった。才能あるクリエイターも、口コミで失敗作の烙印を押されると、テレビ局がいかに推しても観客は来ない。

これは、映画界が極めて健全で真っ当な世界になった、というだけのことかもしれない。これからの映画をヒットさせるのは、映画そのものの力なのだ。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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