前加賀市教育長・島谷千春氏が「教育改革は、組織マネジメントに行き着く」と語る深い理由――<子どもに委ねる学び>に必要な教員研修とは?

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具体的には、まず教育委員会が教員を“指導”するような関わり方をやめた。教員免許を保有する外部人材を中心に伴走チームをつくり、指導主事も一緒に、現場の教員と共に悩み、教員の力を引き出す“伴走型”の研修を始めたのだ。

島谷千春氏
島谷千春(しまたに・ちはる)/独立行政法人教職員支援機構(NITS)審議役。2005年に文部科学省に入省し、初等中等教育、研究振興、国際関係など幅広い分野を担当。2017年から横浜市教育委員会に出向し、2021年からは内閣府科学技術・イノベーション推進事務局。2022年から加賀市教育長として学びの改革を牽引。2025年より現職。著書に、加賀市教育委員会の挑戦についてまとめた『BE THE PLAYER 自治体丸ごと学びを変える加賀市の挑戦』(教育開発研究所)がある(写真:本人提供)

まさに教員の主体性や個別最適な学びを大切にする方向に転換したわけだが、着任直後から現場に積極的に足を運び、教員たちと接する中で「先生は一人ひとり違う」と感じたことが背景にある。

「先生と話していて実感したのは、先生たちの得意分野も組織内での活躍の仕方も、やりたいこと、やれること、やりたくないこと、意欲もそれぞれ違うということ。だから、“揃える”という発想は早々に捨てたほうがいいと思いました。

新しい取り組みにパッと手を挙げる人とやりたくない人を揃えようとしたら、窮屈な組織になります。そこで、目指す絵姿をどんどん具現化するためにも、まずは『やってみよう』という人たちから伴走支援を始めました」

授業においても、「大事にしたい想い」や子どもの見方は教員によって異なる。その個々の「大事にしたい想い」が、教員たちの大きな原動力になっていると島谷氏は感じたという。

「授業はとてもクリエイティブな世界。先生がいい授業を作り上げていくためには自由度が必要ですから、教育委員会はそこに細かく指示を出さず、想いを体現できる余白を大事にしました。

子どもに委ねる授業は葛藤が非常に多いものですが、学びのコントローラーが子どもにわたり、学びが自分事になることで子どもの姿がぐっと変わっていきます。その姿が何より先生のモチベーションとなり、経験と実践を積み重ねていくことが先生の自信になるので、先生の余白や挑戦を優先しました」

「対話型研修」と「失敗大歓迎」の深い理由

さらに、教員の「協働的」「対話的」な学びのため、市教育委員会主催の集合研修はこれまでの“一斉講義型”をやめ、“対話型”のスタイルに転換した。

「講義や講演のように誰かの話を聞くだけでは実践につながりにくいですし、先生たちの悩みや困り事をキャッチしたかったので、市の集合研修では自分の考えや実践を言語化することを重視しました。

先生自身がほかの先生と対話する中で自分の実践を振り返って曖昧な部分を形式知化し、土台を作って新たな実践に進んでいく。研修では、この『実践→振り返り→修正』のサイクルを意識しました」

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