ベネッセが希望退職者募集、かつての雄「進研ゼミ」はどうなる?少子化と新規参入…「家庭学習」もデジタル化で勢力激変

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そこはベネッセも理解しているようである。希望退職者募集についてのニュースリリースにも、「デジタルを駆使した競合の新規参入など、年々厳しさを増しております」と書かれている。そして、次のように続いている。

「このたび、当社は事業計画の実現と中長期での持続的な成長に向けた人材ポートフォリオの見直しを目的として、本制度の実施を決定いたしました」

つまり、紙教材ではなくデジタル重視のサービスに転換するために人材の配置を考え直し、不要な人材を整理するために希望退職者を募る、と読める。ニーズに合わせた体制への転換を急速に推し進めようとしている表れが、希望退職者の募集につながっているのだろうか。

これが成功すれば、ベネッセに生きる道があるのかもしれない。ただし、そこまで同社が考えているのかどうか、ニュースリリースの内容だけではわからない。

ベネッセからの回答

実は、ベネッセには対面での取材を申し込んでいた。希望退職者募集の背景には少子化といった環境変化もあるはずで、それをベネッセとしてどう考え、どう対応していこうとしているのか掘り下げて聞いて伝えることが、広く日本の教育全体の現状を把握し、問題理解のヒントがあると考えたからである。

だが受け入れてもらえず、やりとりを繰り返した末に、取材用に送った「質問項目」に対する文書回答だけがベネッセから届いた。ニュースリリースの内容を深めるものでもない。

今回の希望退職者募集の背景には、事業収益が関係しているのではないかという質問には、「当社は非上場化後、業績については開示を差し控えさせていただいております」との回答である。進研ゼミとの関係についても、以下のような回答でしかない。

「もともと当該制度は事業環境変化を受けての人材ポートフォリオの見直しであり、個々の事業の収益と関連した施策という認識はございません」

人材ポートフォリオの見直しは個々の事業の見直しと連動すると想像されるのだが、上記の文書による説明ではあいまいである。進研ゼミの事業縮小が大きく影響しているのでは、という疑問には次のように記してあった。

「当該施策は特定の事業のスリム化を意図したものではございません」

進研ゼミのスリム化を意図したものではない、ということなのだろうか。紙教材とデジタル教材の併存は続ける方針なのだろうか。デジタル化の流れが強まっていることに、どうベネッセは対応しようとしているのだろうか。

そして強制的な退職勧奨があったのではないかとの質問には、以下のようなキッパリとしたコメントが返されてきた。

「当該制度の実施にあたっては、社員一人ひとりと丁寧にコミュニケーションを重ねるとともに、社員の意思を尊重し、個別の状況に配慮した対応を心がけており、ご指摘のような認識はございません」

ベネッセが、希望退職者を募集しなければならないほどの事業変革を迫られていることは間違いない。そこに、非上場という世間の声に影響されることが少ない環境の中で、同社は取り組もうとしている。

ベネッセは教育産業を代表する存在でありつづけてきた会社である。同社が事業変革を迫られているということは、教育産業そのものが大きく変化してきていることを示してもいる。これからの教育を考えていくうえでも、同社の動向には注目する必要がある。

東洋経済education×ICTでは、小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。
前屋 毅 フリージャーナリスト

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まえや つよし / Tsuyoshi Maeya

1954年、鹿児島県生まれ。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。著書に『学校が合わない子どもたち』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』(朝日新聞社)、『ほんとうの教育をとりもどす 生きる力をはぐくむ授業への挑戦』(共栄書房)、『ブラック化する学校 少子化なのに、なぜ先生は忙しくなったのか?』(青春出版社)、『教師をやめる 14人の語りから見える学校のリアル』(学事出版)など。

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