卒業後も伸び続ける力を育てたい…公立進学校で非認知能力を「AIで可視化」の深い理由 長崎県立諫早高校「総合的な探究の時間」の評価

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この改革により、総合型選抜入試や学校推薦型選抜入試での合格者数が増加し、多様な進路選択を支援する成果を上げています(関連記事)。

一方で、「偏差値以外の評価軸」もあることを生徒に自覚してもらうには、「非認知能力」の成長把握と、生徒への丁寧なフィードバックが、従来の成績表と同様に欠かせないということで、何か可視化できるツールがないかと探していたところに、「Ai GROW(アイ・グロー)」に出会い採用しました。

非認知能力を見える化「人間の評価の歪み」をAIが補正

Ai GROWは、「人を幸せにする評価と教育で、幸せを作る人、を作る」ことをビジョンに掲げるInstitution for a Global Society(以下、IGS)が開発した生徒の資質・能力と教育活動の教育効果を可視化するツールです。

文科省が定める学びの3要素のうち計測するのは、思考力・判断力・表現力と学びに向かう姿勢。これらはコンピテンシー(思考力や判断力、創造力や表現力など個人の行動特性)で、主に非認知能力が求められる領域です。

そこに気質(本人も認識できない生まれもった潜在的な性格)診断も併せて、探究活動に入る前・活動途中の成長や課題の情報収集、事後の変化を継続的に測ることで、教育活動の形成的評価ができるのです。ユニークなのは、コンピテンシー評価が自己評価に加えて3人の他者評価を加える360°評価になっている点です。

この話を聞いた当初、私は生徒同士で公平に評価できるのか疑問を持ちましたが、「逆に自己評価とのギャップを知ることで、自己認識との乖離に気づける。自責感情が高い生徒が、弱みではなく自分では気づけない強みに気づけることで成長にもつながっている」という話を聞いて、なるほどと思いました。

日本の教育では同僚(ピア)同士が、互いに評価し合うピア評価はあまり行われていませんが、これは他者との比較で自分の価値を相対化する相対評価が根強いからでしょうか。しかし、人の評価にはバイアスがあるのではという疑問も残ります。

そこで使われるのがAIです。辛口・甘口など人間の評価バイアスをアルゴリズムに基づいてAIが補正・分析することで、客観性のある信頼のおけるデータになるのです。つまり、AIが人間を評価するのではなく、人間の評価の歪みを補正する役割を担っているということでした。また360°評価は、これが生徒同士の協働や対話を深めることにつながると、学校から評価されているそうです。

スクールポリシーに合わせて必要な能力を可視化できる

実際に導入してみての感触を後田先生に聞きました。前述の通り、諫早高校は県内トップクラスの進学校で、かつては偏差値の高い生徒が偉いという雰囲気があったそうですが、「自立創造」「文武両道」の理念に基づいたスクールポリシーに則って、生徒一人ひとりの個性を尊重し、自律的な学習意欲を促す教育に転換。教員による「脱偏差値型」の学力検討会とも言える「キャリア検討会」を実施し、偏差値ではない特性を見極め、学年のおよそ20%をキャリアエリートとして選抜することで、偏差値重視のヒエラルキーは逆転しました。

後田康蔵(うしろだ・こうぞう)
長崎県立諫早高等学校 指導教諭(探究)
教職29年目、諫早高校は14年目。進路指導主事、教務主任を経て現職。そのほか、進路指導にかかるジェンダーバイアスの学術研究や東京財団研究協力者も務めている
(写真:後田氏提供)

一方で、学校行事を精選しようという動きが出てきたことから、どの取り組みが生徒のどんな能力を育てることに貢献しているかを都度可視化したいというニーズがあり、Ai GROWを導入しました。

一口に非認知能力と言っても、その要素は学問的にも細分化されてきりがないし、自己評価だけだと正確性に欠けるので、学校として育てたい生徒像にフィットした項目を取り出したアンケートが作れる点、チームで活動する総合的探究の時間の評価として、3人の相互評価が取り入られる点もよかったそうです。

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