【後編】吹奏楽コンクールの審査基準や指導法に違和感、地域展開で「音楽基礎教育」が必須な理由 「音楽基礎教育」の欠落が招く、"芸術性"の停滞

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何より、音符(言語にとっての文字、数学にとっての数字)の読み方や、楽譜の読み方(言語にとっての文法、数学にとっての公式・定理)という、音楽教育上で最も重要な基本要素が、吹奏楽教育において整理されているとは言いがたい状況にある。一般団体も含め、現在全国で1万以上の演奏団体が活動しているにもかかわらず、こういった基礎的理論の充実度は極めて浅い。いまだに先人たちの経験則の伝搬を主としているのが現状なのだ。

吹奏楽部における人間教育・社会教育は、本来ならこういった音楽的基礎教育が展開された上に成り立つべきだった。しかしこのような状況であるから、作品の良し悪しを見極める審美眼が育たず、質的に問題のある吹奏楽作品が席巻するに至っていると考えることも、あながち不自然ではないのではないだろうか。

三摩氏の研究は、こういった吹奏楽にとって不都合な現実を予期せず炙り出す結果となった。逆に言えば、これまで日本の吹奏楽は、「音楽基礎教育」の地盤を固めずに発展してきたため、音楽的審美眼の涵養も不十分で、歪になってしまったとも考えられる。

だからこそ、部活動の地域展開が本格化し、学校吹奏楽の再編に伴って“ハード面”(経済基盤や運営母体)の検討が急ピッチで進められようとしている今、本当に急務なのは、吹奏楽における音楽の基礎教育メソードの再構築だと考えられる。基礎あっての応用であるから、基礎教育メソード構築なしに吹奏楽活動の新たな価値観構築はありえないだろう。

吹奏楽の地域展開は、単なる運営主体の変更ではない。吹奏楽はこれを機に、社会縮小と文化濃縮に対応しつつ、これまでの伝統を基により高度な芸術性を生み出し、未来の日本文化の礎の1つとなるべきだ。前回に続き、ここで再び申し上げる。私たち大人こそが今、再勉強し、子どもたちの文化を守り、そして発展させなければならないのである。

(注記のない写真:KATE.M / PIXTA)

執筆:北海道教育大学音楽文化専攻合奏研究室21世紀現代吹奏楽プロデューサー渡郶謙一
東洋経済education × ICT編集部

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