「メシが食える大人」を育てる花まる学習会代表、公教育支援で感じたこの国の課題 「フリースクール」開校で不登校の子ども殺到
長野県の村立小や武雄市で「公教育支援」にも注力
花まる学習会では、独自の授業で培った方法論を社会に還元するため、公教育の支援にも積極的に取り組んでいる。
2006年度には、長野県青木村立青木小学校で思考力育成のメソッドを生かした全学年対象の「考える力を伸ばす授業」をスタート。高濱氏自らが学校を訪問して、月1回、「なぞぺー」などを活用した1時間の授業を行い、翌月の授業までに子どもたちに問題作成の宿題を出す形で実施した。熱心に取り組む子が多かった学年では、県内の進学校である上田高校の合格者が増えたという。
2011年度からは同じく長野県の北相木村立北相木小学校、2012年度からは南牧村立南牧北小学校でも同様の授業を実施。北相木小学校では、朝学習や通常授業の冒頭にも花まる学習会のメソッドを取り入れ、教員がオリジナル教材の作成にも取り組んだという。北相木村とは、花まる学習会が実施している「山村留学」の受け入れ先としても連携をしているそうだ。

さらに、2015年度からは佐賀県武雄市と提携して「官民一体型」の学校事業をスタート。2020年度には市内全11の小学校に広がり、2025年度からさらに3年延長する方針が出されている。
武雄市の学校事業では、花まる学習会のスタッフ2名が現地に駐在して各校を回り、毎朝15分のモジュール授業「花まるタイム」の支援を行っている。「花まるタイム」では、四字熟語、日本語の音読・暗唱、名文や詩の書写、計算の反復練習、空間認識力を養う木製のキューブパズル、平面図形の認識力を養うパターンメーカー(4枚のカードでの形づくり)などに3~5分間隔でテンポよく取り組んでいく。思考力を育成する「なぞぺー」を活用した授業や、2カ月に1回縦割り班で校庭や校外で体験活動を行う「青空教室」も実施してきたという。
「『花まるタイム』の丸つけは地域の方々がサポートに入ってくださっているのですが、地域のお年寄りと接する機会が増えることは子どもたちの人間力向上にもつながります。学校が地域に開かれた場になることで、学校を中心とした地域のコミュニティが生まれた点にも手応えを感じます」

一方、これまで複数の自治体で公教育支援を行ってきた中では、公教育ならではの壁を感じる場面も多かったという。
「学校現場の先生方1人ひとりは熱心なのに、組織としての学校となると動きが鈍くなってしまうことが多い点はもどかしく感じます。だから、どんなによい取り組みも、一気に広げることが難しいんですよね。例えば総合学習が導入されましたが、みんなが長野県の伊那小学校のような探究を実現できたわけではなかった。ここを改善するには、制度面の見直しが必要でしょう。『何年生の終わりにクラス全員がこの能力を獲得できていれば、そこに至る学びのプロセスは自由でいい』というような、より柔軟な仕組みがあれば、先生方も新しい取り組みに挑戦しやすくなるのではないでしょうか」
「学ぶ環境に責任を持つフリースクール」を
高濱氏は公教育支援に取り組む中で、不登校の子どもたちの受け皿となる「新しい学びの場」の必要性も認識するようになったという。
花まる学習会では2022年に東京・吉祥寺のビルの1室に「花まるエレメンタリースクール」を開校。これはいわゆるフリースクールで、小学校2~6年生の児童が在籍している。週4日、9時から14時までの活動を基本としている。
カリキュラムは、花まる学習会のメソッドを活用した各教科の基礎学習や野外体験、農業や大工仕事などをテーマに課題解決型学習(PBL)を充実させているのが特長。例えば、フリーマーケットを行う場合は、子どもたち自らが何をすべきかを考え、告知のためのチラシや動画を作成するグループ、近隣の店舗にチラシを貼ってもらえるように「電話営業」を行うグループなどに分かれて主体的に活動しているそうだ。
「学年やクラスは設けずに皆で学べる環境にしているので、在籍年数の長い子どもが入校して間もない子どもにいろいろなことを教える場面も多く見られます。ADHDや自閉スペクトラム症などの診断を受けていて学校では問題児として扱われている子や、何年も学校に行けていない子も多いのですが、うちに来るとほぼ全員が毎日通うようになっています」