スペイン「行列ができる和菓子店」オーナーの正体 YouTubeと本で日本食を学び、マドリードで起業

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

店舗は、贅沢な装飾などなく、テーブルなど作れる家具は自分で作った。壁には、写真が好きだった姉が撮ったものや、幼い頃の思い出の写真を並べた。笑顔の姉の写真は、厨房から見える位置に飾られている。

トンボの店内には小学生時代の思い出の品が並べられている(撮影:アルベルト・オリバレス)

2024年3月、和菓子店「トンボ」がオープンした。

「トンボ」という店名には、特別な意味が込められている。自由に飛びながらも同じ場所に戻ってくるトンボの習性に、3人きょうだいの絆を重ねたのだ。

サンタンデールで起業するにあたって、石原さんには決めていたことがある。

売上拡大や店舗展開を目指さず、従業員も置かない。その代わりに、1つひとつの商品への思いと顧客との対話を大切にする。

「あなたの『物語』に泣いているの」

2025年1月6日のスペインのクリスマスとも呼ばれる伝統行事「レジェス・マゴスの日(東方の三賢者の日)」では、180個の伝統ケーキ「ロスコン・デ・レジェス」の注文が入り、一人で製造した。箱の中にはケーキとは別に、きょうだいとの思い出を書いた手紙を添えた。一部にこう書かれていた。

<私たちきょうだいはいつも、レジェス・マゴスの日は仕事を休んで、3人で朝食にロスコンを食べることに決めていました。3人はホットチョコレートが大好きで、私はいつもホットチョコレートを作る担当でした。チョコにロスコンを浸して食べているときが、最も幸せを感じる瞬間でした>

後日、ケーキを食べたお客さんから次々と電話が入った。

「今、ロスコンを食べながらあなたの『物語』を読んで泣いているの」「感動した」「息子があなたのロスコン大好きってすごく喜んでた」

石原さんは噛みしめるようにこう話す。

「うれしくて……。この気持ちは何物にも代えがたいものでした。朝2時に起きて、1つひとつ生地をこねて。正直大変でしたが、心から楽しんでいました」

レジェス・マゴスの日に食べるパンケーキ「ロスコン・デ・レジェス」(筆者撮影)
次ページ単なるスイーツではなく、文化と記憶を伝える媒体
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事