スペイン「行列ができる和菓子店」オーナーの正体 YouTubeと本で日本食を学び、マドリードで起業
当時のマドリードでは、日本食の認知度は低く、石原さんは提供する料理1つひとつについて丁寧な説明を心がけた。

「これは、餅といって、日本で古くから食べられています」「中に入っているのは、あんこといって『小豆』という赤い豆を甘く煮たもので、日本でよく食べられています」と、時には、日本の祭りの様子や家庭での食事風景まで説明を加えた。
「とにかく食べ物の背景を伝えました。日本ではどういうときに食べるのかなど。そうすると、『じゃあ、試してみようかな』と少しずつ興味を持ってもらえるようになったんです」
さらに、共同経営者であるパートナーが当時のモヒートブームに着目。焼酎や梅酒を使用したアレンジモヒートと日本のスイーツセット2.5ユーロ(約300円、当時のレート)を考案すると、売上は徐々に上向いていった。事業が軌道に乗ると、マドリードの中心地ラ・ラティーナ地区への進出を果たし、従業員も増えていった。
2016年、マドリードのトレンド発信地として知られるマラサニャ地区への移転を決める。改装工事が始まろうとしていた矢先、石原さんは突拍子もない提案を、持ち出したーー。
転機となった姉の病
「全メニュー、グルテンフリーにしよう」
グルテンフリーは、小麦のグルテンを一切含まない調理法で、欧州では注目されていた。当時、石原さんの店では抹茶ケーキ、たこ焼き、お好み焼き、カツ丼、カレーなどを提供していたという。日本食で使う調味料のほとんどにグルテンが含まれている。無謀な提案に聞こえるが、石原さんにはどうしてもグルテンフリーにしたい切実な理由があった。
栄養士の資格を持つ姉が、数カ月前にがんと診断されたのだ。食事療法に取り組むことを決めた姉は、グルテン、砂糖、乳製品を摂取しない方針を石原さんに伝えていた。
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