スペイン「行列ができる和菓子店」オーナーの正体 YouTubeと本で日本食を学び、マドリードで起業

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まるで、つらいことなど何も起きていないかのように、何も考えられないほど働いた。

特に大きな経験となったのは、料理人カルロス・アルギニャーノの息子のパン屋で働いたことだった。カルロス・アルギニャーノは、視聴率18パーセントの料理番組を持つ、スペインでは知らない人はいないほどの有名人である。

「今までに経験したことないほど忙しいお店でした。6時間同じ動作を繰り返し、時には500個のティラミスを一度に作りました。特に段取りが素晴らしかった。その経験が今生きていると感じます」

気づけば、かつて抱いていたコンプレックスは、確かな技術の習得により払拭されていた。

素材は質を重視し厳選して選んでいる(撮影:アルベルト・オリバレス)

「トンボ」の店名に込めた思い

2022年10月、石原さんは、姉が最期を過ごしたカンタブリア州のサンタンデールにいた。

あらゆる有名店で働いた職歴が奏功し、履歴書を送れば、採用通知が来るようになっていた。いくつかのお店を経験したが、働いてみるとパンやデザートは冷凍で、こだわりが感じられなかった。カンタブリア州のレストランで働き気づいたのは、安かろう悪かろうのお店が多いこと。さらに、月収1100ユーロ(約17万円)で週6日勤務という条件の悪さがほとんどだった。

「そうなるとモチベーションが上がらないし、パティシエの価値自体がないと言われているようでした」

その違和感は、やがて独立への意思へと変わっていく。石原さんはお菓子へのこだわりをこう語る。

「お菓子の材料は多くても5種類ほど。少ない材料だからこそ、原料の質で勝負できるんです。味に詳しくない方でも、子どもでも、いい素材で作ったお菓子は『おいしい』とわかってもらえるはずですから」

当初は「起業する気はまったくなかった」石原さんだったが、「これなら自分で起業したほうがいいな」と思うようになっていた。しかし、肝心な資金がない。そこで石原さんは銀行に相談することにした。

「過去の学歴や職歴の書類をみて、思った以上の融資を受けられることになりました。今までやってきたことに全部意味があったな、と思えました」

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