山縣有朋の挫折-誰がための地方自治改革- 松元崇著 ~本来の地方自治をむしろ破壊した現行制度
さらに、軍備だけでなく近代国家としてするべきことも飛躍的に増大する。義務教育の普及、衛生の拡充、救貧政策などである。近代産業の発展とともに、都市は富裕に、地方が貧しいままという状況が生まれてくる。すると、地方は近代国家に必要とされる経費の重圧にあえぐことになる。
ここで考えつくことは、国が都市から税を吸い上げ、地方へその税を還付することである。しかし、関東大震災によって東京に課税することは不可能となり、農村の疲弊は進む。この状況で軍部が台頭し、中央から地方への財政資金の還付が拡大する。そのメカニズムは、今日も続いている。しかし、地方が中央からの補助金によって運営されるのでは、自治は育たない。
本書を読むと、自らの事業を自らの税によって行うことが自治であり、現行の地方自治制度は、江戸時代から続く本来の自治をむしろ破壊してしまったのではないかという感慨を持つ。残念ながら、現在の地方分権論議には、この住民自治の観点が欠けているように思われる。
歴史、制度、評伝を含み、注だけで100ページある大著であり、地方分権について考えるうえでの必須の知識が詰まっている。
まつもと・たかし
内閣府事務次官。1952年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。大蔵省入省、米スタンフォード大学でMBA取得。熊本県企画開発部長、銀行局金融会社室長、主計官、主計局総務課長、大臣官房参事官兼審議官、主計局次長、内閣府官房長などを経る。
日本経済新聞出版社 2940円 410ページ
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