葛藤を通した成長が大切、「登校を促さない」で改善しない不登校の子への対処 スクールカウンセラー「社会を意識した対応を」

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ただ、昔に比べて、子どもたちに「現実」を伝えづらくなりました。例えば、学力以上の学校への進学を希望しているお子さんがいても、教員が「点数が足りていない現実」を伝えることで、「先生がダメだと言ったから希望する学校に行けなかった」と他責的になったり、ショックを受けている子どもを前にした親が「もっと配慮してくれ」と言ってくるという事例もあります。

そうなると「学校が現実を伝える」ということがしづらくなるわけです。通信制などの選択肢が増えたことは基本的によいことですが、子どもが「今のスタンスを変えなくても通える」ということにもなりやすいので、どうしても「現実に直面して、悩みながら成長する」という機会は少なくなってしまいます。この辺は難しいところです。

──「現実」を伝えたほうがよい事例とそうでない事例は、どう見極めればよいのでしょうか?

これは親御さんや教員だけではなく、カウンセラーのような専門家が入り、きちんとプロとしての見立てを行って見極めていくことだと思います。子どもに「現実を伝え、支えていく」ことが必要な場合は、親御さんがこの方針に共感できるかは大切なことです。年齢にもよりますが、子どもを支える役割を担うのは親御さんになることが多いので、協力関係の中で方針も共有して同意を得ていくことがマナーですね。

「みんなの事情を考慮した枠組み」に協力するスタンスが重要

──子どもが現実と折り合いをつけながら成長し、将来的に社会参加できるようにするには、どんな関わり方が必要なのでしょうか。

昔は「子どもは大人に合わせなさい」でしたが、今は「子どもの意向を尊重する」ご家庭も多いかもしれません。でも、これは「言うことを聞く相手」が変わっただけで、本質的には何も変わっていませんし、誰かが「不本意な我慢」を強いられる考え方でもあります。大切なのはそのどちらでもなく、「子どもや大人、みんなの事情を考慮した枠組み」にみんなが協力するというスタンスです。

例えば、うちの子どもは児童クラブで宿題をしてきますが、たまに忘れることがあります。でも宿題をしてきてくれないと、私たちが時間ギリギリの中で食事を作ったり、お風呂を入れたりしつつ、何とか適切な時間に寝かせようとしているのに、すべてが後ろ倒しになってしまいます。

だから、そういうときには「みんなで暮らしている家なんだから、お互いに協力しないと困るよ」と伝えます。もちろん、ちゃんとやってきてくれていたら「協力してくれて助かる」と感謝を伝えるのは当然です。こういう関わりを通して、子どもが「家族に属することで満足感を得る」ということがしやすくなります。

これは家庭の例ですが、学校でも同じで、みんなで「めあて」を決めるのは、それに向けてみんなが協力し合うためです。また、教員と児童生徒が話し合って校則を決めるのも、「みんなの事情を考慮した枠組み」をつくって、そこにみんなが協力していくことが大切なのです。

多くの人が思っている以上に「自分が協力することで、この集団は助かっている」という感覚は大きな充足感になります。また、この感覚は「集団から力をもらっている」という形になります。

「自分は○○ができる」といった自分の功績だけで自分を支えることも大切ですが、これだけだと限界があります。集団に所属することによって得られる充足感は、現代の子どもたちが得にくくなっているものであると思いますが、これの有無によって社会参加のしやすさは大きく変わってくるのではないでしょうか。

「思いどおりにならない」ことが苦しい子どもへの対応

──「現実」をきちんと伝えていくという関わりは、いつ頃からやっておくべきですか?

藪下遊(やぶした・ゆう)
スクールカウンセラー
仁愛大学大学院人間学研究科修了。東亜大学大学院総合学術研究科中退。博士(臨床心理学)。東亜大学大学院人間学研究科准教授や各市のいじめ第三者委員会委員等を務める。現在は、石川県内の小・中・高でスクールカウンセラー、福井県あわら市の保育カウンセラーを務めるほか、福井県教育総合研究所スクールカウンセラーとして多くの事例に対してカウンセリングを実施している。近著に『「叱らない」が子どもを苦しめる』(ちくまプリマー新書)
(写真:本人提供)

だいたいイヤイヤ期になると、子どもはやや万能的な有力感をもって外界と関わろうとします。この時点から、少しずつ「他人(親)は、すべてを思いどおりにはしてくれない——けど支えてくれている」「自分は万能ではない——そんな自分でも大切にされる」という体験が積めるよう、大人は現実を変えずに子どもを支えるという関わりにシフトしていくものです。

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