もう無理!運動の限界を決める「脳のメカニズム」 パフォーマンス最大化する「覚醒ゾーン」とは?

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体を活動的にさせる「交感神経」と、体をリラックスさせる「副交感神経」に分けられ、心臓や胃など全身のほとんどの器官の働きを制御しています。

運動時に心拍数が増え、血管が収縮し血圧が上がるのは、自律神経のうち交感神経の働きによるものです。

「苦しい」と感じると疲労物質がたまってくる

――運動と「神経」という言葉を聞くと、まず運動神経を思い浮かべる人が多いと思います。自律神経も筋肉の動きに大きく関わっているのですね。

運動神経は手足の筋肉を動かしたり、声を出したりする司令を脳から届けるもので、自分の意思でコントロールが可能です。

一方で自律神経は自分の意思でコントロールできないもので、目の遠近調節や血液循環、消化、発汗などを無意識のうちに調整しています。筋肉を動かし続けるためには、血液の循環を調整している自律神経の働きが欠かせません。

和氣秀文氏
和氣秀文(わき・ひでふみ)/順天堂大学スポーツ健康科学部 学部長、大学院スポーツ健康科学研究科 研究科長 教授。脳機能に関わる研究を幅広く行っている。運動(循環調節、モチベーション、中枢性疲労)、病態(高血圧)、性差などをテーマに分子神経科学的手法を用いて調べている(写真:本人提供)

自律神経は筋肉の動きだけでなく、「疲れて苦しい、つらい」といった運動による苦痛感にも大きく関わっていると私は考えています。「苦しい、つらい」という感情が生まれると同時に自律神経も反応します。この状態を「情動」と呼びます。

情動は主に脳の「扁桃体」という、ストレスに強く反応する神経細胞が集まる場所で発生します。扁桃体で苦しいなどの感情を覚えると、交感神経が一気に活発になります。

運動により交感神経が活性化すると、心臓の働きを促進して全身に多くの血液を流そうとします。通常、交感神経の活性化は血管を収縮させますが、活動している筋肉の血管については、代謝産物やホルモンの影響により拡張します。

これが、運動中に都合よく筋肉に血液が集まるしくみです。しかし、強度を高めたかなりきつい運動で交感神経が活性化しすぎてしまうと、筋肉の血管といえど、拡張しづらくなって思うように血液が流れなくなります。すると、血液や筋組織に代謝産物がたまってくる。

代謝産物のうち、疲労物質と呼ばれるものは筋肉の動きを抑制したり、感覚神経を刺激したりします。そしてその情報は扁桃体にも伝わり、不快感を覚えると同時に交感神経が活発になる。運動が続くと、苦痛感に変わり、交感神経もさらに活発になるという負のスパイラルに陥ります。

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