[Book Review 今週のラインナップ]
・『日本経済の故障箇所』
・『「ネット世論」の社会学 データ分析が解き明かす「偏り」の正体』
・『校歌斉唱! 日本人が育んだ学校文化の謎』
・『漱石『門』から世相史を読む』
評者・BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
1990年代末に130兆円だった企業の利益剰余金は、アベノミクス開始直前に300兆円超まで増加し、2023年度には600兆円の大台に乗せた。90年代末のメインバンク制崩壊後、長期雇用制を守るため、万一に備え企業は資金を貯蓄しているのだ。この間、人件費は足元で多少は増えたとはいえ、おおむね横ばいである。
企業が溜め込み、賃金横ばい 「合成の誤謬」から抜け出せるか
マクロ経済学の専門家が、日本経済の課題をわかりやすく論じた。評者は、儲かっても賃上げにも国内投資にも消極的な大企業が日本の長期停滞の元凶だと考えてきたが、本書には頷(うなず)くことばかりだ。
多くのエコノミストは「生産性が上がらなければ賃金は上げられない」という企業経営者に賛同する。確かに生産性向上は大事だが、過去四半世紀で、日本の時間当たり生産性は3割上昇したものの、実質賃金は横ばいだ。生産性が上がっても実質賃金が上がらなかったのが実態である。賃金が上がらず個人消費が停滞、国内の売り上げが増えない中では、企業としても採算が取れない。よって、国内投資も増えない。これは典型的な「合成の誤謬」だという。
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