林:かつてスマホで世界大手だった台湾のHTCは自社で設計した液晶パネルの製造をサムスンに委託しました。ただ、当時のHTCの幹部が教えてくれたのですが、HTCが設計したパネルはサムスンが設計したよりも優れていたそうで、スマホ市場の競争激化を懸念されたからかサムスンが供給を止めてしまったのです。純粋なファウンドリーでなければ、このような問題が半導体でも起きるのです。
自分の顧客を競合相手にも紹介する
林:それに対してTSMCの顧客サービスは本当にすごいのです。あるときTSMCは自社の供給能力が足りなくなってしまい、顧客の要望に応えられないことがありました。そのとき、TSMCはファウンドリーのライバルでもあるサムスンに顧客を紹介したのです。
TSMCには顧客の成功がTSMCの成功だという考え方があります。だから顧客のためにライバル企業も紹介できるのです。顧客はTSMCのこのような姿勢をみて、ますます信頼するようになるのです。
情ポヨ:TSMCの強さのポイントは技術力だと日本ではよく紹介されてきましたが、それと合わせて顧客サービスとコスト意識が大事です。まさにこの3点が本書でも指摘されていますね。
私はTSMCやインテル、サムスンなど各企業の工場に入ってきました。その中でコスト意識の高さでTSMCの工場で驚いたことがあります。TSMCが初めて建設した12インチ向けの半導体工場に入ったとき、一部が自動化されておらず人が運搬していました。
その理由を聞くと「このラインは自動化よりも人力のほうがコストを抑えられるからだ」と答えたのです。自動化はあくまでコスト抑制の手段であり、目的ではない。TSMCは何よりもコストを重視し、それを抑制するための最適な方法を柔軟に考えているのです。
技術に対する意識もとても高いことがTSMCの人たちと付き合っているとよくわかります。
たとえば、私が開発した新しい自動化に関する製品を工場にもっていくとTSMCのオペレーターたちが集まってきて「これはなんだ?」とみんなが質問攻めしてきます。「早く仕事に戻れよ」と思ってしまうほど好奇心や知識欲をむき出しにして興味をもってくるのです。
日本を含めてたいていの人は自分の仕事以外に興味がありません。ところがTSMCの人は自分の仕事以外のことにも関心をもって、常に新しいことを吸収してそれを活用して出世やより大きな仕事をしようという思いが強いと感じます。
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