TSMC、驚くべき顧客サービスとコスト管理の実態 TSMCを追った経済記者と現役エンジニアが対談

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:TSMCも独自開発が成功する確証があったわけではありません。同社もかつては技術をライセンス供与や提携で得ていました。IBMはTSMCとも提携を検討していましたが、提携したらTSMCのスタッフをニューヨークにあるIBMの研究開発センターに呼ぼうとしました。しかし、TSMCは開発拠点を台湾に置きたかったのです。議論の末、このときTSMCは独自開発を選んだのです。

IBMと提携しなかったTSMCが逆転

情ポヨ:半導体は開発と製造が近くにないといい製品ができませんね。

:その通りです。結局、UMCのIBMとの提携はうまくいかず、TSMCの独自開発がうまくいって、差がつきました。この事例から私は今の日本で進んでいるラピダスとIBMの提携についてもUMCの教訓を踏まえる必要があると指摘しています。

情ポヨ:実際、その後もIBMとグローバルファウンドリーズ(GF)が7ナノメートルの開発で協力しましたが、成功しませんでした。IBMとの協力は大変な苦労が必要です。

:もともとUMCのほうが7年先に設立された半導体企業で180ナノメートルの開発ではTSMCをリードしていました。しかし、130ナノメートルの競争で逆転されたのです。

TSMC--世界を動かすヒミツの著者、林宏文
林宏文・ジャーナリスト
主にハイテク・バイオ業界の取材に長年携わりながら経済誌「今周刊」副編集長、経済紙「経済日報」ハイテク担当記者を歴任し、産業の発展や投資動向、コーポレートガバナンス、国際競争力といったテーマを注視してきた。現在はFM96.7環宇電台のラジオパーソナリティや、メディア「今周刊」「数位時代」「CIO IT経理人」のコラムニストとして活躍中。また、台湾のクルーザーメーカーで世界第四位の東哥遊艇(Ocean Alexander)、各種コネクタ・部品サプライヤーの太康精密股份有限公司、バイオ企業の鑽石生技投資股份有限公司の独立役員を務めているほか、財団法人鼎動電機教育基金会代表理事なども兼任(撮影:尾形文繁)

そしてこれは企業文化の競争でもありました。UMCはもともと自社ブランドの製品も製造する企業として始まり、ファウンドリー事業を後から始めました。一方で、TSMCは最初から受託製造が専門のファウンドリーとして起業されました。

半導体の製造を委託する企業にとって、ファウンドリー事業と別に独自の製品を開発・製造販売している企業は競争相手でもあり、委託した製品の技術が盗まれないか警戒します。

情ポヨ:現在のサムスン電子やインテルのファウンドリー事業も同様の問題を抱えていますね。

:まさにその通りです。TSMCとUMCの競争は、そのままTSMCとサムスン、インテルとの競争と同じといえます。そして受託する側も委託してくれた企業は自社製品との競合相手でもあるので、顧客に親身になれない心理が働きます。

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