日本人が続々スペインサッカークラブを訪ねる訳 「ビジャレアルCF」で活動する指導者の視座

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「例えば未就学児に対する指導は、実際に見るとより実感できます。コーチは子どもと必ず目線を合わせるし、3歳児でも判断しなくてはならないメニューをやっていました」

ファンにも伝わるスピリット

練習でも試合でも、クラブで行われていることすべてに理由があった。例えば、合計9面のピッチ、オフィス棟、1育成選手約100名が暮らす寮など立派な施設が並ぶ脇に、古ぼけた黄色い納屋があった。

古ぼけた黄色い小屋に込められた思いは…(写真:筆者撮影)

かつてはロッカールームやシャワールームなどが収まるクラブハウスとして使われていた。ビジャレアル会長の「我々がどこから来たのかを忘れないために取り壊さない」という意見にスタッフも賛同し保存していると聞いた。どんなに繫栄しても初心を忘れるなという意味だ。このスピリットはファンにも伝わっていた。

「コロナ禍でクラブが経済危機に陥ったとき、無観客開催が確実となった2年目のシーズンを前に、ソシオ(クラブ会員)に年間シート販売を打診したところ、1万4000人もの会員が年間シートを更新してくれたと聞きました」

観戦できないかもしれない試合にお金を払う。それは、チームの苦境を考えてのことだ。現地で佐伯さんからこの話を聞いた住田さんは、「僕ら3人は鳥肌が立ちました」と明かす。2週間の欧州視察では4カ国、7クラブとプレミアリーグ本部などを訪ねた。アーセナルなどプレミアリーグの名門にも足を運んだが、丸3日滞在したビジャレアルがやはり最も印象に残ったという。

「クラブのあり方に共感してくれる人がファンになっていました。ファンはクラブの構成員なんだという感覚が人々に浸透していました。創立100年という歴史も感じますが、ビジャレアルには哲学がある。その哲学が地域に根差すには大切なんだと実感しました。ベイスターズも同じような形になってくると素晴らしいなって思います」

住田さんは視察の後、社内での感想会で主にビジャレアルの取り組みを他の職員らとともに発表。さらに、プロ野球団職員ながらジュビロ磐田やJリーグのコーチ講習などに招かれ、サッカー関係者へビジャレアルについて伝え続けた。今年2月には読売ジャイアンツ職員や一軍で活躍した片岡治大U15コーチらも訪れたが、こちらも住田さんが「絶対行くべき」と話したのがきっかけだ。

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