日本人が続々スペインサッカークラブを訪ねる訳 「ビジャレアルCF」で活動する指導者の視座
彼女は所属するビジャレアルで2014年から120人のコーチングスタッフやスポーツ心理士とともに、指導改革に着手。手取り足取り教えず、選手自身に考えさせるというスタイルを構築してきた。それは指示命令して教え込むような多くのスポーツの指導とは真逆だ。書籍『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』でもそれらについては詳しく描いている。
それらはサッカー界を長く知る大人たちにも目からうろこだったと聞く。どうやって教えるか? 自分たちに従わせることばかりに気を取られてきたのに、教えない指導スキルこそが目の前の誰かを成長させるというのだから。佐伯さんから学びたいという声が各所で上がり、Jリーグ理事時代後半のおよそ2年間で180件の取材および講演を実施してきた。
「本を読み、話を聴くと、これはもうこの目で確かめなければと思わせられました」
そう話すのは、今回の25名のひとりであり、一度視察したこともある住田ワタリさん。横浜DeNAベイスターズチーム統括本部チームディベロップメント部に籍を置くチームディベロップメントコーディネーターの役を担う。
「100年先に野球をつなぐ」
ベイスターズは2022年、「クラブはどこに向かえばよいのか?」といった議論を開始した際、テーマをこう掲げた。そのために何をすればいいのか。そのひとつとして、選手やコーチらの成長支援にどう取り組んでいくかという課題が浮かんだ。そこで佐伯さんの本を読んだ住田さんが提案し、チームディベロップメント部部長ら3名で翌年の4月にビジャレアルを訪ねた。
それにしても、野球なのにサッカーの視察でいいのか。行くならメジャー(MLB=メジャーリーグベースボール)では?といった声が幹部から上がらなかったのだろうか。住田さんは言う。
「MLBについては、僕らは多くの情報をすでに得ていました。どのような育成、運営なのかという部分で日本とあまり変わらない点が多く、アメリカから学ぶよりは、欧州のサッカークラブのように地域に根差したクラブから学びたかった。ほかの競技でもよかったんです」
Jリーグでは「親会社の業績や試合の勝敗に左右されないクラブ作り」を目指すところが増えている。プロ野球も同様で、幾人かの球団幹部は「勝ち負けに左右されない球団経営」を口にしている。つまり、勝ち負けに関係なく愛され続けるには地域に根差したクラブでなくてはならない。それは日本のプロ野球も同じだ。住田さんらは、ビジャレアルが地域にどうやって根差しているのか、どんな指導方針なのかを佐伯さんの解説を聞きながら見ていった。
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