「景気回復の実感」ないのに株価が上がる納得理由 株価は再び上昇トレンドに向かっていくか

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さらに、上図で見るとGDPよりもGNI(国民総所得)のほうが時価総額と連動性は大きいものとなっています。GNIはGDPと計算が似ているのですが、「日本企業が海外支店等で生産したモノの価値を含んでいる」点が異なります。GNIは、以前GNP(国民総生産)と呼ばれるものでしたので、なつかしい用語と思う読者も少なくないかもしれません。

日本企業はこれまで労働コストが低いなどからアジアなどでの現地生産を増やす傾向にありました。こうした海外における生産はGDPには含まれませんが、GNIには含まれます。確かに国内の景気動向を見る上では海外生産を除いたほうが適切でしょう。しかし、株価を決める要因となる企業の業績は、海外での収益も含むため、株価との関係は、GDPよりGNIのほうが強くなります。

景気に対する実感は「実質」、株価は「名目」と連動

少々専門的になりますが、統計学の分野では2つのデータの関係を見るのに相関係数というものを使います。相関係数が「1」だと2つのデータが完全に一致して動いていることになります。つまり、通常は1よりも小さな値となり、1に近ければ近いほど連動していることを示します。

具体的な計算方法は専門書に譲りますが、GDPと時価総額の相関係数は「0.77」でした。一方、GNIと時価総額は「0.86」となりました。統計学の専門書によれば0.8を超えると「強い相関」がある関係です。統計的なデータからもGNIのほうが株価との関係が強いことがわかりました。

今回は、私たちにとって景気が良いという実感がそれほどでもないのに、株価が上昇してきたことの理由を解説してきました。景気に対する実感は「実質」ですが、株価は「名目」と連動します。景気が実感としては、それほどでなくても、株式市場にとって足元の投資環境は基本的には良いことがわかります。株価は再び上昇トレンドとなることが期待されます。

吉野 貴晶 マネックス証券チーフ・マーケット・アナリスト 兼 マネックス・ユニバーシティ 投資工学研究学長

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よしの たかあき / Takaaki Yoshino

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で、記録的となる16年連続で1位を獲得した後、国内系運用会社で投資工学開発センター長を経て、現職。社会人として歩みを始めて以来、一貫してクオンツ計量分析、データサイエンス、AI(人工知能)を活用した証券市場の分析に携わる。大学共同利用機関法人 統計数理研究所のリスク解析戦略研究センターで客員教授を兼任。青山学院大学大学院国際マネジメント研究科(青山ビジネススクール)にて客員教授、学術フロンティア・センター特別研究員。経営戦略、企業評価とポートフォリオマネジメントの授業の教鞭も取る。博士(システムズ・マネジメント)。日本ファイナンス学会理事、日本金融・証券計量・工学学会(JAFEE)理事。2025年9月より現職。

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