「普通の子」が突発的に凶悪犯罪を起こす理由、引き金は「親の静かな抑圧」 ごく一般的な教育的指導が裏目に出ることも
「いわゆる『母さんが夜なべで手袋を編んでくれた』時代は、親の愛情が子に伝わりやすかったのですが、今は愛情に基づく親の行動が伝わりにくい時代です。また、高度な育児理論を学んでいたり、知育道具を与えたりはするのに、ただシンプルに『子を愛しいと感じたときに抱きしめる』というような素朴な愛情表現が苦手な親もいます。原始的な愛情表現が下手になった親と、解釈の仕方が下手になった子が組み合わさると、親の愛情を疑ったまま精神的に不安定な状態で成長することになります」
母性的・父性的なかかわりが子の健全な成長を促す
親が子に対して明確に愛情を表現すると、子は安定した自己像を形成し、健全な人間関係を築くことができる。しかし、愛情表現が不器用な親は子に混乱を与え、否定的な自己観を持たせる原因となることもある。その副作用として、成長段階で直面する悔しさや腹立たしさを乗り越える胆力を持てずに、一般的にはささいなことだと思われるようなことがきっかけで、犯罪を引き起こしてしまう可能性も否定できないという。
とくに現代の日本には、「失敗しても愛してくれる存在がいる」ことを感覚的に確信できない子どもが大量に存在すると碓井教授は警鐘を鳴らす。
「親から子へのかかわり方のうち、親子の愛着形成に影響するとされているものに、『母性的対応』と『父性的対応』があります。母性的対応は子を無条件に包み込むようなかかわりで、子の精神的安定の基盤となる温かさです。一方、父性的対応は子の自立心を育むために物事への挑戦を促す厳しさのことを指します。なお、これは『母性的対応は母親の役割』などと性別を限定するものではありません。ひとり親でも両方の対応を兼ね備えることができますし、祖父母など両親以外の身近な大人が担うこともできます」
ポイントは母性的な優しさと父性的な厳しさのバランスが取れていることだという。このバランスが取れた環境での子育ては、子が自己肯定感を持ち、社会的な挑戦に立ち向かう力を育む基盤になる。
未成年の凶悪犯罪をニュースで知るたびに、自分の子は大丈夫だろうかと不安がよぎる親もいるだろう。しかし、この不安を抱えることは決して珍しいことではなく、むしろ親として自然な感情ではないだろうか。大切なのは、その不安を正面から受け止め、子どもたちが健全に成長できるよう、愛情深く、かつバランスの取れた支援を提供することだ。親としてできることは限られているが、子どもが自分の道を見つけ、歩んでいくための強い基盤を築くことが重要なのだろう。最後に碓井教授はこうメッセージをおくる。
「私は、若者がどのような道を選んでも美しい花を咲かせると確信しています。たとえ、親が望む道に進まなかったとしても、その子の人生を応援し、誇りに思う関係を築くこと。その姿勢を大切にしてほしいです」
(文:末吉陽子、 注記のない写真:’90 Bantam / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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