「普通の子」が突発的に凶悪犯罪を起こす理由、引き金は「親の静かな抑圧」 ごく一般的な教育的指導が裏目に出ることも
「表面上は問題がないように見える子も、内面的なストレスや抑圧された感情が蓄積している場合があります。犯罪を起こす背景には、家庭内外の過大な期待とそれに伴うストレスなど、さまざまな心理的プレッシャーが存在します。これらのプレッシャーによるストレスを健全に発散する方法を見つけられないままでいると、ある日、感情が突然爆発してしまうことにつながりかねません」
碓井教授が不穏な兆候だと懸念するのは、親からの「緩やかなプレッシャー」にさらされた子が凶悪犯罪を起こすケースが、日本でたびたび見受けられることだ。親による虐待や過度な教育、あるいは育児放棄に該当するわけでもなく、ごく一般的な教育的指導が裏目に出ることがあると指摘する。
「教育の程度の問題と、親子の相性の問題があります。『宿題をしなさい』『早く寝なさい』などの声掛けはどの親もしますし、大抵の子どもは上手に受け流したり、反発できたりするものです。しかし、親の中には『こうしなければならぬ』という思いが強すぎて、言葉をかける頻度が多い人がいます。それと同時に子どもの性格的に、親に強く反発したり受け流したりできないとなると、親子の相性が悪いです。はたから見れば緩やかなプレッシャーに思える教育であっても、子には強いプレッシャーにつながることがあります」
親子の境界線を意識し、子の人生を尊重する
わが子に期待しない親はいないが、期待が仇となる可能性も否定できない。親としては身動きが取れなくなりそうだが、「この子にはこの子の人生がある」と割り切った発想を持つことがポイントだと碓井教授は説明する。
「日本のように学歴重視の社会では、子への教育的プレッシャーが大きくなりがちです。子に対して高すぎる期待を持つ親の場合、親自身が外からのプレッシャーを受けているケースもあります。社会と親の両方からプレッシャーを受けることで、精神的に不安定になる子もいます。まずは、親が心の余裕をもって、子の特性を理解し、そのうえで最適な環境と支援を提供することが大切です」
しかし、理屈ではわかっていても、固定観念が強く「これくらいできて当然だ」と自分の感覚を疑わない親もいる。例えば、一族全員が一流大学を卒業しているなど、学力的に優秀な家系出身の親は、「勉強して成績が上がらないわけがない」と信じて疑わない傾向にあるという。思い込みに無自覚な親による子への「静かな抑圧」は、子の犯罪行動を引き起こすリスクの1つだといえる。
「自分と他人の境界線のことを『バウンダリー』と言いますが、子が乳幼児の頃は物理的・心理的なバウンダリーが曖昧です。通常は子の成長に従って明確になりますが、親がバウンダリーを引けないケースがあります。子が思春期を迎える頃には親が『自分と子どもは別の人間』だと自覚することが大切です」
親子のバウンダリーを意識したうえで、子が目標に対して自発的に挑戦する姿を応援し、仮に挑戦が目標に届かなかったとしても、揺るぎない愛情を示すことが重要だという。しかし、親自身が「子に対する愛情表現」を苦手としていることもあると碓井教授は指摘する。