働き方改革を阻む「保護者対応」、モンスター化を防ぐ「枠組みづくり」の視点 「法的根拠」がない現状では毅然と対応できない
また、いじめについては、保護者に協力を求めた。
「『いじめをしない』『いじめは止める』『止められなければ先生か親に言う』ということを親からお子さんに年間10回は話してくださいとお願いし、いじめが起きた場合は加害者の責任を問うこともお伝えしました。なぜいじめが卑怯でダメなのかを保護者が時間を取って真剣に話すことは、いじめをなくすうえで重要なことだと考えています」
そのほか、家庭訪問を原則禁止とした。松浦氏によれば、家庭訪問は相手の檻に自分から入っていくようなものであり、何時間も話を聞かされたり怒鳴られたりして、なかなか帰してもらえないケースがあるという。
「認知の歪みがある保護者に対してうまく対処するスキルを持たない先生に、対応を丸投げして家庭訪問をさせてはいけません。そこで、先生方には『家庭訪問は禁止されているので、必要なら校長室に来てください』と保護者に言うよう伝えました。これはすごく先生方に喜ばれましたが、校長として当然の対応です」
松浦氏は、電話対応においても、教員に「30分以上を超える電話対応は校長から禁止されています」と保護者に言うよう伝えていたという。
「電話対応でも面談でも、30分を超えると同じ話の繰り返しになります。被害者意識が強い人や過度に怒っている人は、長時間になればなるほど怒りの強度が増していきます。そのため30分という制限を設けましたが、なかなかそれを保護者に言えない先生が多いので、伝える練習をかなりさせましたね」
「保護者の不当な要求」には国が制限をかけるべき
モンスターペアレントの問題は1990年代頃から社会問題化したが、今もなお教員が苦しんでいる状況が続く。とくに経験の浅い若手教員の負担は大きく、保護者対応が原因で精神を病んでしまう教員も多い中、「学校教育は国家の基盤。保護者の不当な要求には国が制限をかけるべきではないか」と松浦氏は指摘する。
「事実上、長年にわたって国はこの問題を放置してきたと言えます。法的根拠のない現状では、学校は毅然と保護者に対応することはできません。例えば、少年院法では、『少年院の長は、必要があると認めるときは、在院者の保護者に対し、その在院者の監護に関する責任を自覚させ、その矯正教育の実効を上げるため、指導、助言その他の適当な措置を執ることができる』とあり、少年院長は保護者を指導できるようになりました。極端なケースに限られますが、養育責任を十分に果たさず問題を学校に丸投げしたり、学校に不当な要求をしたりする保護者に毅然と対応するためには、学校教育法にも『学校長は、必要があると認めるときは、保護者を指導できる』などの法的根拠が必要ではないでしょうか」
新年度、教員は新たな児童生徒や保護者との出会いがある。新たに管理職に就く人もいるだろう。現場で奮闘する人へ、松浦氏はこうエールを送る。
「とくに若い先生方にお伝えしたいことがあります。世の中には教育の美談があふれていますが、それと比較して『できていない自分はダメだ』と思わないでください。教育は限界だらけですから、一生懸命やっても成功より失敗のほうが多いもの。だからこそ、限界をしっかり知っておく必要があります。枠組みをつくることは、いわば限界を知ること。そこから何をすべきかが見えてくるはずです。先進国では保護者対応の大変さから先生の成り手が少ないことが共通の課題になっていますが、日本は長時間勤務の問題も相まって、とくに由々しき事態となっています。将来有望な若い先生たちを守るためにも、保護者対応を変えていきましょう」
教育現場を疲弊させる保護者対応の問題。教員を守るためにも、また、子どもたちの未来のためにも、学校の「枠組みづくり」を実践する価値はありそうだ。
(文:吉田渓、注記のない写真:beauty-box/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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