若者を襲う「ブラック社会」を変えるための方策 国立大女性教員がみるリアルな社会問題(後編)

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そのため、子供を保育所に預ける保護者は残業や休日出勤が難しい。小学校に上がる前の子供がいる男性従業員が残業できるのは、その配偶者の多くが正社員雇用や昇給・昇進をあきらめ、時短勤務に甘んじているからだ。妻の出世を犠牲に仕事をする夫が、恨まれないはずはない。

認可の夜間保育所もあるが、2014年には全国85カ所あった施設が減少し続け、2021年には全国75カ所となっている。京都・大阪を中心に近畿地方に約4割弱、関東地方に約2割と都会に偏在しており、沖縄県内では本島に3カ所しかない。その上、2022年7月に那覇市の認可外の夜間保育所で、一時預かりされた生後3カ月の男児が死亡する事故が起き、夜間保育所じたいの利用がためらわれるようになった。

十分に周知されていないベビーシッター関連制度

「こども家庭庁ベビーシッター券」という、国の補助制度があることをご存じだろうか。「企業主導型ベビーシッター利用者支援事業」の承認事業主となった企業の従業員がベビーシッターを利用すると、1日(回)に基本的には小学3年までの子供1人につき4400円分、1家庭当たり月最大12回の補助が受けられる。東京なら約2時間分、沖縄なら約3時間分のベビーシッター代だ。対象年齢内の兄弟・姉妹がいる場合、複数の子供に同時に使えるが月の補助回数は減る。

ひとり親、あるいは夫婦ともに仕事があるときのみ利用可能で、配偶者が専業主婦(主夫)や産休・育休中だったり、夫婦の両親のいずれかが保育可能な場合には対象外だ。利用場面は、自宅保育または自宅保育と保育所への送迎を合わせた場合に限定されている。子供を会社に連れてきたり、外で遊ばせたり、学童や習い事の送迎はできない。自宅でも、ベビーシッターに家事や習い事のレッスンをさせてはいけない。

制度が十分に周知されておらず、承認事業主は2024年1月15日時点で4820社にとどまっている。承認事業主の企業内でも周知が徹底されず、知っていても短時間の限られた場所でしか利用できないため、利用率は約7割弱となっている。2023年末時点で、発行されたベビーシッター券約48万枚のうち実際に利用された枚数は約33万枚、約15万枚は利用されずに申し込んだ企業側に残った。

残業ありきの労働環境は改善されるべきだが、同ベビーシッター券を利用して、妻だけがキャリアをあきらめなくていい労働環境を、同時に整えることも必要ではないか。小さい子供1人がいる家庭で、夫婦の勤務先が別でどちらも承認事業主なら、ひと月24回まで補助が受けられる。毎日18時にベビーシッターが子供を保育所に迎えに行って一緒に帰宅、夕食と歯磨き、入浴、着替えまで終わった20時頃に親のどちらかが帰宅することも可能になる。

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