若者を襲う「ブラック社会」を変えるための方策 国立大女性教員がみるリアルな社会問題(後編)

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親と過ごせない子供がかわいそうだというなら、夕方~夜のみ在宅勤務を認めることも検討してはどうか。夕方以降は会議や打ち合わせが入ることが多い。オンラインでの参加を可能にすれば、親は自宅でベビーシッターと過ごす子供の姿を確認しながら働ける。

現場の声を聞こう

日本人の平均収入や20代の手取りが減り続け、男女とも夫婦共働きが望ましいと考えるようになっているのに、企業は30年前と変わらない転勤や長時間残業、休日出勤ありきの労働を従業員に強いている。その結果、女性の労働時間は増えているのに、育児の負担が女性だけにのしかかる状況は変わっていない。

キャリアを重視する女性がフルタイムで働きたくても、小さい子供がいると夫ではなく自分が時短勤務を選ばざるをえない。このような労働環境で結婚しない女性、出産しない女性が増えるのは当然だ。

若者の非正規雇用率の高さなど収入の不安定さに、未婚率の増加や出生率の低下を求める議論が、メディアでは大勢を占めるが本当にそうなのか。

株式会社パートナーエージェントが2020年に実施した、結婚相手の年収に関するアンケート調査によると、「相手が家事育児をしっかり分担するなら、年収が平均額より多少低くても結婚する」と、回答した25~29歳の未婚女性は全体の63.3%にのぼった。若い女性に関していえば、男女とも平等に働いているのに、家事育児の負担は女性だけが背負わされるという不公平感が、結婚や出産の忌避につながっているのではないか。

いまや食料・日用品の配達サービスや冷凍食品・食材キットを利用し、全自動乾燥機付洗濯機やロボット型自動掃除機、食器洗浄機を使用すれば、家事のほとんどは省力化できる。だが、人と人が触れ合うことで子供が成長する育児は省力化ができない。

人工知能が搭載された子育てロボットとて、人が遠隔操作し、画面の向こうの人と子供が話すことが前提となっている。日本では現在まで、子供と触れ合うのは母親の役割だとされてきたが、もういい加減、父親やベビーシッターなどに役割を分担させ、母親の省力化を図るべきだ。

まさにこの点に注目した専門家のシンポジウムが、3月2日(土)にオンラインZoomで開催予定だ。事前申し込み制で詳細は下記を確認していただきたい。

日本社会の女性をとりまく育児環境の問題をテーマにしたシンポジウムが3月2日にオンラインで開催予定です。「子育てフォーラム パートナー間の育児環境を考える―新生児を迎えるにあたって―」では、子供が生まれて家庭の役割分担や職場との調整などに起こる変化について、3人の専門家が問題を整理し、討論しながら解決策を考えます。主催は沖縄県那覇市若狭公民館。パネリストはベビーシッターの新垣翔吾氏、アンガーマネジメントファシリテーター・産業カウンセラー・防災士の中江房子氏、株式会社かねひで総合研究所次長の金城桃子氏です。お申し込みはこちら
山本 章子 琉球大学人文社会学部国際法政学科准教授

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やまもと あきこ / Akiko Yamamoto

1979年北海道生まれ。一橋大学法学部卒。編集者を経て、2015年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。沖縄国際大学講師などを経て、2018年より琉球大学専任講師。専攻・国際政治史。著書に『日米地位協定 在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書)、『米国と日米安保条約改定――沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年、日本防衛学会猪木正道賞奨励賞受賞)など。

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