若者を襲う「ブラック社会」を変えるための方策 国立大女性教員がみるリアルな社会問題(後編)

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若者の就職や子育て家庭をとりまく環境について地方国立大学の教員である筆者がリアルな社会問題に迫る(後編)

疲れ果てるワンオペ中の母親
若者世代は古い慣行から新しい責任まで背負い、追い込まれている(写真:PIXTA)
本稿は2月28日に公開した「若者が『ブラック企業』を避ける本当の厳しい理由」の続きとなる後編です。

前編では若者がライフワークバランスを求め、「ブラック企業(官庁)」を避ける背景について、あまり一般には理解されない実態から就職活動の傾向にも変化があると指摘した。今や文系学部の学生に人気だった銀行・金融機関・保険は「体育会系だから嫌」だと、そもそも就職先として選択肢に入れない女学生が増えている。

古い慣行で育児の両立に苦しむ

地方銀行は転勤こそないが、平日の会社の飲み会、土日の取引先とのゴルフやバーベキューが多く、ライフワークバランスが成立しない。都市銀行や大手証券、保険は長時間勤務や転勤、土日出勤が当たり前。先輩よりも早く帰れない、接待が日常、など雇用契約には書かれない古い慣行が、近年、女学生に敬遠されている。

実際に、銀行や金融機関で働く夫を持つママ友たちは苦労している。

土曜の朝からゴルフやバーベキューで夫は不在。家にいるときも、資格試験の勉強をしているので、やはりワンオペ育児。会社の命令で次から次に資格をとらされるが、取得できないと昇給・昇進できないので仕方ない。妻も正社員として働いている。パートだと点数が低くなり、子供が保育所に入れない場合があるので、仕事と子育ての両立がどんなに大変でも、正社員で時短勤務をするのが最善なのだ。

また、初めての出産直後、夫の転勤で知らない土地に引っ越した別のママ友は、またすぐ転勤の辞令が下りた夫が単身赴任。母子だけ残され、子供を保育園に預けるために正社員の仕事を見つけて時短でワンオペ育児中だ。

時短勤務とは、一般的なフルタイム勤務8時間を6時間に短縮して働くことをいう。ただし、ほとんどの職場では時短になっても業務内容・量は変わらない。業務の締め切りをフルタイム勤務の社員よりも延ばしたり、夕方以降の会議や打ち合わせへの参加を免除したりすることで対応している企業が多い。

つまり、業務は楽になるどころか、短時間で成果を出さなければいけない分きつくなる。出産前よりも業務負担の軽い部署に異動させる企業もあるが、本人の仕事のモチベーションが下がり、「不利益取扱い」だと訴えられるリスクもあるので、本人の希望に沿った配属が行われるようになっている。

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