その理由を、「学びをあきらめないということが、われわれが大切にしているコンセプトですが、それは自ら学ぶ力があるという状態を指しています。逆にどんなに偏差値が高くても、人から言われないとできないなら、学習の能力としては低い状態です。自分からつかみにいくとか、自分のモチベーションをコントロールすることが大事なので、自由度を高くして、学習者がやりたいことをやりたい時にやれるようにしているのです」と中村さんは話します。
自由進度学習は「子ども自身がやることを決めること」が大事
以前、公立小学校でeboardを導入し、現在はオルタナティブスクール、HILLOCK初等部の自由進度学習の時間に使用している蓑手さんは、「eboardを使うことで、大人も子どもも学び方の概念が変わる」といいます。どういうことでしょう。
HILLOCKでも、最初は「習っていないからできない」とか、「難しいものはやらない」という子は多いそうですが、「習っていないことを獲得するために学ぶのだし、評価されるために勉強するのではない」ということを伝えていくうちに、学びに向かう姿勢が変わっていき、できないことにも失敗を恐れずどんどん挑戦をするようになるのだとか。
これは、「自分はやればできる!」と思うグロースマインドセット※になったということなのでしょう。自由進度学習を進めるうえでは、こうした指導者の姿勢がとても大切なのです。
HILLOCKでは、子どもたちが自分で目当てを決めて、そこに向かって何をするかを自分で選びます。わかるところはスキップして先に進んでもいいし、大事だと思ったら戻ってもいい。さらに、映像授業とデジタルドリルを組み合わせ、授業で学んだことをどれだけ理解したかを確認しながら進めていくこともできる。
子どもたちが失敗を恐れずに挑戦していくことができる仕組みが、eboardの中にはあるようです。
「自分はいつでも、どこでも好きなタイミングで学習ができる自由度が好きでeboardを使っています。私自身はいつまでにこれだけをやらなければならないとは考えていませんが、自由進度学習を進めるうえでも、学習指導要領の範囲がコンテンツとしてそろっているので、それが保護者にとっても安心感につながっている」と蓑手さん。
アカウントを取ればそれぞれの学習記録が残り、誰がどこをどのくらいの時間をかけて進めているかを把握することもできます。
※グロースマインドセットとは、「自分の才能や能力は、経験や努力によって向上できる」という考え方のこと。反対に「自分の才能や能力は、努力をしても向上しない」という固定的な考え方をフィックスマインドセットという。アメリカ、スタンフォード大学のキャロルデュエック教授の研究によって能力に対する考え方が行動に影響することがわかっている
自由進度学習のプロセスは、探究学習にもつながる
学校の授業では、30〜40人相手に学習を進めなくてはいけないので1つのことを教えるのにどうしても時間がかかりますが、このようなICT教材を使うことで、教科学習の時間を短縮することができ、空いた時間を協働的な学びや探究的学びに使うことができます。
以前紹介したヒミツキチ森学園でもeboardを使っていますが、連携をしている葉山町の教育委員会もその様子を視察して「自由進度で子どもたちが自分で学習計画を立て、振り返りながら次の学習につなげていくプロセスは、公教育の探究学習を進めていくうえでも取り入れたい」と言っていました。