注目の「神山まるごと高専」、学生も教員もゼロから手探りで進む開校後のリアル 大蔵峰樹校長「ベンチャー企業のようなもの」
「何かに取り組む際のスタイルが、学校と社会では真逆。例えば学校の試験は、覚えてこい、何も持ち込むなと言われますよね。一方の社会では、見れるものは全部見ろ、人に聞けと言われ、1人で考えていると怒られます。そうしたギャップはずっとおかしいなと思っていました。だから本校も学校の中で閉じるのではなく、地続きで学生たちを社会につなげたい。卒業時には社会人3年目くらいの人材になれるといいなと思っています」
ChatGPTを導入、毎週水曜の夜は起業家とディスカッション
ChatGPTの有償版を導入し、全員に課題作成を含め自由な活用を認めている点も、実社会とのつながりを重視する同校らしい取り組みだ。活用に制限を設ける学校も多いが、こうした方針を採る狙いについて大蔵氏は次のように語る。
「いずれにせよ、将来的に学生が生成AIに触れる機会は必ずやってきます。ビジネス的な視点になりますが、真っ先に使って問題点を見つけ、対応を探っていくようでなければ先行者利益は取れません。レポート作成についても、検索サイトの利用はよくて、なぜ生成AIはダメなのでしょうか。ただし、楽をするためだけに使った学生と、生成AIに向き合ってきちんと理解しながら使った学生とでは5年後に大きな差が出るでしょう。どちらを選ぶかは学生次第であり、どちらを選んでもよいと思っています」
課外プログラムとしてとくに特徴的なのは、「Wednesday Night」だ。毎週水曜日の夕方に、第一線で活躍している起業家や経営者らに学校に来てもらうのだが、いわゆる講演会ではない。15歳のときに何を考えていたのか、これまでどんな経験をしてきたのかといった自身の半生について語ってもらうだけでなく、夕食も共にし、後半は少人数に分かれて学生たちとディスカッションをしてもらう。前期は12回開催し、25人の起業家を招いた。
「これまで中学生だった学生が、社会で活躍する大人たちと直接話ができるというのは有意義な体験。しかも、名刺交換もするので後日コンタクトを取りたければ、それも可能になる。前期は25人の方に来ていただきましたが、学生たちは年間で約50人の起業家とコネクションができるわけです。おそらく若手起業家なら10万円支払ってでも参加したいほどの贅沢な内容。このすごさを今はわからないかもしれませんが、学生たちはきっと将来振り返った際、役に立ったと実感するプログラムだと思います」
「5年間の学費無償化」のカラクリとは?
学費が実質無償である点も、同校の大きな特徴だ。私立高専ということで、本来なら学生1人当たり年間約200万円の学費がかかる。「5年間では寮費も合わせて約1500万円。国内でいえば私立大学くらいの学費がかかるため、経済的事情で入学を断念する子もいるかもしれない。機会均等の観点から、持続可能な独自の奨学金スキーム『スカラーシップパートナー制度』を構築しました」と大蔵氏は説明する。
具体的には、協賛企業に1社10億円を「一般社団法人神山まるごと奨学金基金」に拠出してもらい、同基金の運用で得られた運用益を学生に奨学金として給付するという仕組みだ。現在、ソニーグループやソフトバンクなど計11社の企業が参画しており、2期生以降も5年間の学費無償化のメドが立っているという。
さらに、学生たちは学年で4名ずつ、各企業名を冠した奨学生となり、所属の拠出企業と5年間を通じて研究活動を行う。現在、学生たちは「所属するスカラーシップパートナーを2期生に紹介する」というテーマで企業理解に取り組んでいる。今後は、企業との共同研究や新規事業の開発なども想定しているという。

















