大学進学者数は2026年度をピークに減少

急速な少子化により、日本の大学は厳しい経営環境に直面している。中央教育審議会では、2023年9月に文部科学大臣から諮問された「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方」について検討が行われ、2024年8月に「中間まとめ」が公表された。

文科省によると、一般的にわが国の大学進学者となる18歳人口は1992年度の約205万人(直近ピーク)から2023年度には約110万人に減少し、2040年度には約82万人になると推計されている。

今後の18歳人口や大学進学率等の動向を踏まえると、大学進学者数は2026年度に65万人とピークを迎えた後、2040年度以降50万人程度に減少すると見込まれる。もしピーク時の大学入学定員を維持すれば、学生数は入学定員の8割程度しか満たせないことになる。つまり、多くの大学が入学定員割れとなり、入学希望者を競って取り合うことになるだろう。

すでに私立大の半数超が定員割れ、本格的な大学淘汰時代へ

日本の大学・短期大学数は、国公私を累計すると1992年度から2023年度までほぼ横ばいだが、私立大学に限れば1.6倍に増えている。日本私立学校振興・共済事業団(以下、私学事業団)の調査によると、2024年度には私立大学(学校法人)の約6割が入学定員割れとなり、とくに中小規模の大学で深刻な状況にある。私立短期大学に至っては約9割が定員割れとなっている。

私立大学は学生納付金に依存した収入構造のため、定員割れは経営に悪影響を及ぼす。「中間まとめ」では、急速な少子化は「中間的な規模の大学が1年間で90校程度減少していくような規模」で進行しているとの警鐘が鳴らされ、とくに学校数を増やしてきた私立大学を中心に大学淘汰の時代が現実のものとなりつつある。

大学が経営破綻したら、学生はどうなるのか

日本の大学生の約7割は私立大学に在籍している。私立大学は国公立大学とともに高等教育の根幹を担う存在であり、高い公共的使命が求められる。大学が経営破綻し突然閉鎖されれば、在学生の教育機会が失われ、卒業が困難になる可能性もある。

過去に在学生の卒業を待たず閉鎖された私立大学のケースでは、文科省が各大学団体に協力を求めつつ、近隣の大学などで学生を受け入れたが、将来的に大学破綻が増えれば個別対応にも限界があろう。行き場のない学生の教育機会の確保等を巡り深刻な社会問題となりかねない。

一般的に、大学と学生の間には、学生側が授業料などを支払う一方で、大学が授業等の教育役務を提供する「在学契約」が継続していると考えられる。破綻を理由にした他大学への編入などは容易ではなく、契約者としての学生を保護する観点が重要だ。そこで、私立大学(学校法人)が経営破綻した際、学生の教育機会を確保し、安心して学業を続けられるようあらかじめセーフティネットを構築する必要があるのではないか。

大学の経営指標と「早期是正措置」の必要性

通常、経営破綻は突然発生するものではなく、経営悪化に陥っている組織を経営改善あるいは早期に退出させるといった事前措置のほうが、経営破綻後の措置よりも契約者や取引先、債権者の負担といった社会的コストが小さく済む。

谷口智明(たにぐち・ともあき)
第一生命経済研究所 総合調査部 研究理事
1990年4月に第一生命保険入社。1997年4月から第一生命経済研究所に異動。2006年4月に公益社団法人経済同友会に出向。2018年4月から第一生命経済研究所政策調査部長等を経て、2023年4月から現職。財政・社会保障や教育分野における調査研究および政策提言活動に従事している。専門分野は財政・社会保障、教育
(写真:本人提供)

大学に置き換えると、経営改善の見込めない大学について計画的に規模の縮小や統合・撤退などがなされるように、所轄庁が経営指標に基づいて指導・命令を発動する。それでも経営困難となり破綻した場合に備え、事後措置として「学生保護機構」(仮称)を活用するといった両面から備えておく必要がある。

まず事前措置については、大学を設置認可してきた国が経営の持続可能性に課題を抱える大学や学部に是正命令を発動し、早期に再生・再建に向けた措置を講じなければならない。例えば、国は経営判断を各学校法人の自主性に任せるだけでなく、私学事業団の「経営判断指標」といった経営指標等を参考に、経営の継続性や健全性を客観的に把握する観点から「早期健全化指標」を設定する。

そのうえで、経営判断指標に基づいた「早期是正措置」を導入することで、突然の経営破綻を回避し、経営を早期に改善させる必要がある。こうした取り組みを迅速かつ効果的に行うためには、国が必要な是正命令を発動するなど「早期是正措置」に法的拘束力を持たせることも検討すべきだ。

あわせて、学校法人会計の透明性向上も不可欠である。各学校法人は、受験生も含めた学生や保護者など社会に対して判断材料を明示する必要があり、財務状況等をわかりやすく公開しなければならない。国による指導内容や大学の経営改善に向けた計画などを広く公開し、より透明性のある情報開示を行うことが求められる。

学生保護機構などセーフティネットも

次に事後措置だが、大学が経営破綻した際の学生保護の枠組みについては、とくに確立されたものがある訳ではない。そこで、破綻大学に在籍する学生の教育機会を確保し、学業継続を支援するためのセーフティネット機能を担う機関、例えば第三者機関としての「学生保護機構」の設置が必要だ。

同機構の主な役割は、破綻大学の学生保護(取得単位の保護・移管、他大学への転学支援、納付した授業料の保護・返還、学籍簿の管理、学業継続のための資金援助など)、救済大学の斡旋・資金援助、円滑な破綻処理手続きへの支援などが考えられる。なお、救済大学の斡旋に当たっては、「地域連携プラットフォーム」や「大学等連携推進法人」の枠組みも活用し、国公私の枠を超えた複数大学がグループとして受け入れるという選択肢もあろう。

その際、学生を受け入れた大学側では、授業料の差異に加え、一時的に定員超過となるケースも想定されるが、破綻大学が受けていた補助金等を分割支給するなどの特例も必要ではないだろうか。

同機構の運営に当たっては、会員大学(学校法人)からの資金拠出に加え、拠出金だけでは不足する場合、金融機関からの借り入れや国からの財政措置(公的資金)も備えておく必要がある。

現実となってほしくはないが、この課題に備えるために、大学側の早期の対応と、国として事が起きる前に経営が危ぶまれる私立大学等への具体的な「早期是正措置」のあり方、「学生保護機構」の役割や体制等に関する制度設計が急がれる。

このような環境整備は高等教育システム全体の信頼性と安定性の向上にも寄与し、結果として社会全体の利益にもつながるものと考える。ここで提案した制度設計は、法制面を含めまだ多くの課題もあろうが、学生保護の枠組み構築に向けた検討のきっかけになることを期待したい。

(注記のない写真:Graphs / PIXTA)