記事の目次
子どもたちから歓声が上がる授業の中身
小学校におけるプログラミング教育の狙いとは
プログラミングに知見のある企業との連携に期待

子どもたちから歓声が上がる授業の中身

「では、今日からプログラミングを勉強するんだけど、皆さんの机の上に白いマットと機械が置いてあります。この機械は、皆さんがプログラミングを勉強するために作られた『Root(ルート)』くんと言います」と授業を始めたのは、東京・板橋区にある私立の淑徳小学校で3年生の担任を受け持つ細川雅史先生だ。

「『Root』くんを作った会社が、ここに書いてあるんだけど、アイロボットという会社なんです。アイロボットという会社聞いたことある人〜?」

そう先生が尋ねると、「CMで聞いたことがある」「うちの掃除機」など、教室の各所から子どもたちの声が上がる。クラスの人数は20人程度だ。

「ルンバって、お掃除ロボット聞いたことある人〜? ルンバというお掃除ロボットを作っている会社なんですけど、皆さんのプログラミングの勉強向けにこういったものを作りました。今日はこれを使って勉強していきます。まず黄色いボタンを押して電源を入れます」

プログラミングを学べる小さな「Root」を使った総合的な学習の授業

「うわ〜っ」と教室全体が盛り上がる。「では、iPadを使って『Root』くんに指示を出していきたいと思います」と細川先生は、「Root」をプログラミングで制御する専用アプリが入ったiPadの画面をプロジェクターに映し、iPadと「Root」をつなぐ方法を説明する。すべてタップするのみの簡単な操作だ。

操作は画面下のブロックを長く押して上に移動させるだけ

「画面の下にいろいろなブロックがあるよね? 青いブロックからスタートして、指示をしたいときは黄色いブロック。長く押して移動させてつなげてみよう。いろんなマークがあるから、何の指示なのかヒントにして、『Root』くんへの命令をイメージしながらつなげて、どんなふうに動くのか試しながらやってみて。動かすときは、左の矢印マーク。これよく見るよね? 再生とストップボタンだよ」

すると、先生が「Root」を黒板に貼る。磁石が付いているようで、先生が試しに組んだ「Root」への指示、プログラムがどう動くのか確かめられるようになっている。「すごーい」と子どもたちから拍手が起こる。「いろんなマークをつなげたらどう動くか? 音符のマークとかもあるよね。どんな動きをするのかやってみて。では、はじめ〜」

授業冒頭での先生の説明はこれだけだ。あとは、2人に1台の「Root」と「iPad」を使って画面上でブロックを組み、それぞれに動きを確かめていく。

2人に1台の「Root」と「iPad」を使って画面上でブロックを組み合わせ動きを確かめる

「3つ進んで曲がる 3つ進んで曲がる、やったー」と思いどおりの動きを再現でき跳びはねて喜ぶ子、「ちょっと待って、私やってみたいことある」と元気に動き回る子、くるくる回り続ける「Root」を見て「What?」とおろおろする子など、教室全体がにぎやかで楽しそうだ。

「ちょっと集まって〜」と、途中で先生は子どもたちを集合させ、音やランプがつくように設定したグループをみんなに紹介したり、授業の終盤では、どんなふうにつなげたのか子どもたちに前で発表させて、黒板を使って実際にその動きを確認させたりもしていた。

「またやりたい人〜?」と聞くと、みんなが手を挙げる。細川先生も「子どもが、どう反応するかと思ったが、もともとノリがいいし、プログラミングに興味がある子が多い。わーっと、歓声も上がって楽しくできてよかった」と手応えを感じていた。

小学校におけるプログラミング教育の狙いとは

淑徳小学校では、2015年に初めてiPadを10台導入した。当時は、英語の人形劇のセリフ練習やオーストラリアにある姉妹校に向けてビデオレターを制作するなど、主に英語の授業でiPadを使用していたという。18年に、5・6年生で1クラス分ずつとなる80台を新たに配備し、英検アプリを使った学習を週に1〜3回行うほか、クラブ活動ではコマ撮りアニメの制作なども行ってきた。いよいよ今年2月には、1〜5年生に1人1台のiPadを配付する予定で、4月から全学年の各教科でiPadを活用した授業が始まる。

冒頭で紹介した3年生の授業は、総合的な学習の時間に行われたプログラミングの授業だ。小学校におけるプログラミング教育は、今や生活に欠かせなくなっているコンピューターの仕組みを理解し、うまく活用する力を身に付けるため、20年4月からスタートした新学習指導要領で必修化された。

その狙いは、プログラミング言語を覚えたり、技能を習得することではなく、コンピューターに意図した処理を行わせるために必要なプログラミングの論理的な思考を身に付けることにある。また、プログラムの働きやよさを理解するとともに、社会がコンピューターなどの情報技術によって支えられているという気づきを促し、コンピューターなどを使って問題を解決する態度を育むことに重きが置かれている。

一方、中学校では21年度に技術・家庭科でプログラミング教育が拡充され、高校では22年度にプログラミングなどを学ぶ「情報 I 」が必修となる。つまり、プログラムを作成するうえで必要なアルゴリズムの考え方やその表現の仕方、コンピューターやネットワークの仕組み、コンピューターを使った問題の発見・解決のための知識、技能などは、中学校や高校で学ぶというわけだ。

では実際、小学校ではどのようにプログラミング教育が行われているのか。文部科学省(以下、文科省)は、例えば「小学校5年生の算数で、プログラミングを使って正三角形を作図する」といった各教科の単元で実施するプログラミング教育のほか、総合的な学習の時間を使って企業と連携して行う指導例などを公開している。今やこうした例に加えてモデル校、また全国のプログラミング授業の実践例が蓄積され始めているが、まだ必修化されたばかりとあって、どの学校もプログラミングの授業をどう行っていくかは手探り状態にあるといっていいだろう。

出所:文部科学省「小学校プログラミング教育の手引(第三版)」より抜粋

プログラミングに知見のある企業との連携に期待

その点、文科省は企業との連携には期待を寄せているようだ。企業が講師として直接指導を行うほか、企業が提供する社会貢献プログラムを活用することを勧めている。何より、「プログラミングが社会でどう活用されているのか」をよりリアリティーを持って学ぶことができるのに加え、企業にはプログラミングに知見のある人材が豊富にいる。

実際、小学校におけるプログラミングが必修化されたことで、同分野へ新規参入する企業も増えている。「Root」を開発したアイロボットをはじめ、「LINE entry」のLine、ロボットPepper(ペッパー)を使った「Robo Blocks」のソフトバンク、「Playgram」のPreferred Networksなどのプログラミング教材のほか、サイバーエージェントのように個人向けに全国でプログラミング教室を展開する企業もある。

ビジネスとしてプログラミング教育事業を手がける企業があるのはもちろん、自社が持つ知見やノウハウを生かして未来のIT人材を育成することを掲げ、社会貢献の一環として事業を展開している企業も多い。アイロボットも、その1つだ。

「今、コーディング言語を学ぶことは、英語や日本語を学ぶのと同じくらい重要になっている。プログラミングが流暢に話せる人が求められていて、人材教育も不足している。子どもの将来を約束するスキルであり、そのニーズに対応したいと考えている」とアイロボットの創業者であるコリン・アングル氏は話す。

アイロボットは、11年から米国で展開しているロボットエンジニアを育成するためのSTEMプログラムを3年前から日本でも展開している。そのプログラムをより多くの人に体験してもらおうと、プログラミングが学べる小さなルンバ「Root」を開発し、2月19日から発売する予定だ(公式ストアで2万9800円〈税込み〉)。

プログラミングをシミュレーションできる「Root」があるとわかりやすいが、プログラムアプリは無料でダウンロードでき、アプリだけでも十分にプログラミングを学ぶことができる。しかもアイロボットは、今回ホームページからの申し込みによる先着順で、1000台もの「Root」を全国の学校に無償で提供した。

すでに全国の小学校でパイロット授業がスタートしているが、「Root」のエデュケーショナルインストラクターである為田裕行氏は、「人の役に立つ実用的なロボットであるルンバを多くの子どもが知っています。ぶつかったり、段差を落ちたらどうなるか、例えば『障害物にぶつかったら、後ろに下がって、180度回転する』といったルンバの動きを知っていて、それがどういうコーディングになっているのかを『Root』で体験できるのが大きい」と話す。

テキストプログラミングにも対応。子どもの習熟度に合わせて学べる

こうしたプログラミング教育の第一歩としてのハードルの低さがある一方、テキストプログラミングまで対応しているので、子どもの習熟度に合わせて学ぶことが可能だ。「Root」を使ってどんな授業を行ったらよいかなど、指導案やワークシートまで用意されているという。

淑徳小学校では、「楽しみながら情報活用能力を高めること」をモットーに、20年11月から「Root」を使った授業に取り組み始めた。淑徳小学校の松本太学校長は「お掃除ロボットのルンバと『Root』とのつながりが直感的にわかるのがいい。プログラミング技術が生活を豊かにすること、現在の子どもたちの学びが将来生きるのにプラスになることが伝わるといいなと願っています」と話す。

(注記のない写真はすべてアイロボット提供)