トラウマが原因で生じる「第4の発達障害」が、学校教育の現場を混乱させている 親子で治療が必要なトラウマ系発達障害とは

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

近年はさまざまなトラウマ処理の技法があり、保険診療外来でもできるものもあります。しかし、トラウマ処理を行うことができる医師や臨床心理士は多くありません。

そこで私は、一般的な外来で行うことができる簡易的なトラウマ処理方法を工夫してきました。それが、EDMRを基盤としたTSプロトコールです。これは、トラウマの記憶を思い出すのをやめて不快感だけを抜きます。するとフラッシュバックが収まるのです。セルフで可能な方法も考案していて、例えば子どもが自分で自分の胸の上、鎖骨のあたりで腕をクロスし、鎖骨の下を左右交互にパタパタと叩くというものです。心のラジオ体操のような感覚で、学校の朝礼などでもTSプロトコールを取り入れてもらえたらと思っています。

──トラウマ系発達障害の子どもには、こうしたトラウマ処理が有効ということでしょうか。

有効ではありますが、虐待は家族の病理ですから、子どものトラウマ処理だけでは解決しない問題もあります。虐待してしまう親は、自身も子どものときに虐待を受けていた人が非常に多いもの。日本の子ども虐待が減らないのは、子どもも親もトラウマ処理をしていないからなのです。トラウマ系発達障害の治療では、子どもだけでなくその親の治療も行う必要があります。

子どもの頃、虐待を受けていた女性の中には、暴力的な男性への親和性が高くなり、そうした男性と結婚してDVに遭うというケースが多くあります。反対に、暴力的な男性を避けて、対人距離が遠いASD(自閉スペクトラム症)の男性に親和性を感じ、伴侶に選ぶケースも少なくありません。

一方で、知的な遅れのない軽度の発達障害のある人は虐待を受けるリスクが高くなるといわれています。発達障害の症状に対して、親はしつけで何とかしようとして虐待になってしまうこともまれに起きてきます。また、ASDの人は感覚過敏といった特性から、普通に生活をしていても怖い世界が広がっていると感じやすいもの。さらに、ASDには「タイムスリップ」(トラウマのフラッシュバックに似た記憶の病理)があり、トラウマを抱えやすくなっています。

このように、親がトラウマを抱えている家族の間では、鶏が先か卵か先かといった具合に、トラウマが先か虐待が先かわからない状態となることがあります。

──教員や子どもに関わる大人はどのような視点を持っておくべきでしょうか

3つあります。1つ目はトラウマに気づくこと。「トラウマのメガネをかけ」て、その子を見るのです。2つ目は、子どもだけでなく親子で見ること。トラウマ系発達障害の子どもは長期にわたる虐待を受けていますから、その親はモンスター・ペアレントになりやすい傾向にあります。そのため、学校だけで対処しようとすると埒があきません。児童相談所、医療機関、心理士など、専門家との連携をつくりましょう。

3つ目は学校でできることをやること。それは何といっても教育です。学習の成果が上がることほど、子どもの自尊心を伸ばすものはありません。トラウマ系発達障害の子はネグレクトや不登校が多く、解離という記憶を飛ばす症状もあって、学習が遅れがち。だからこそ、一人ひとりに合った学習が必要なのです。

(文:吉田渓、注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

東洋経済education × ICT

小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事