トラウマが原因で生じる「第4の発達障害」が、学校教育の現場を混乱させている 親子で治療が必要なトラウマ系発達障害とは

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──虐待は脳にも影響を及ぼすのでしょうか。

身体的な虐待を長期にわたって受けると、感情や思考のコントロールに関わる前頭前野の体積が小さくなることが明らかになっています。一般的な発達障害で、前頭前野にこれだけ大きな影響が出ることはまずありません。

このように、ACEは何十年も強い毒性を持ち、子どもの脳の働きだけでなく形まで変えてしまいます。幻覚や多重人格(解離性同一性障害)などが起こることもあります。

しかし、精神科(とくに成人)では、「トラウマがある」という視点を持って理解し、診療する、いわゆる「トラウマのメガネをかける」ことも、その大切さも知られていません。例えば、幻覚を訴えた患者に解離性障害を疑うべきところを、統合失調症と診断して薬を出してしまうなど、多くの誤診が起こっています。

トラウマ系発達障害はカウンセリングもプレイセラピーもNG

──トラウマ系発達障害は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)とも異なるのでしょうか。

衝撃の大きい出来事があったり、怖い体験をすると、ふとしたきっかけで記憶がよみがえるフラッシュバックが起こります。通常は数日もすると記憶が薄れていきますが、フラッシュバックが続くようだとトラウマになっていると判断されます。

PTSDの場合は、このトラウマが“1回だけの出来事”によるものになります。怖い体験を思い出すのはつらいので、思い起こさせる行動を回避するようになりますが、安心感が戻ってくると過剰な覚醒(緊張)状態は収まります。この過覚醒、フラッシュバック、回避が2カ月以上続き、日常生活で明らかなマイナスが生じているとPTSDと診断されます。

一方、虐待のように長期にわたって何度も繰り返される反復性のトラウマは、いつ暴力が降りかかってくるのか、つねに緊張の中で過ごすことになります。それは過覚醒状態が続くということ。すると、感情のレギュレーション機能が壊れ、激しい気分変動が起こります。さらに、自分は価値がないと感じたり、人への信頼関係が壊れてしまうのです。

ICD-11(国際疾病分類第11回改訂版)では、先ほどお話ししたPTSDの3症状(過覚醒・フラッシュバック、回避)に「気分の上下・無価値感・他者への信頼の崩壊」の3症状を加えたものを、複雑性PTSD(Complex post-trauma stress disorder)としています。複雑性PTSDではフラッシュバックがいつでもどこでも起こります。そして、複雑性PTSDは子どもへの虐待で多く発症しています。

──複雑性PTSDにはどのような治療が行われるのでしょうか。

複雑性PTSDのフラッシュバックはいつでもどこでも起こりますから、まずはそれに対する治療が必要です。

しかし、フラッシュバックがあると一般的なカウンセリングがうまくいきません。というのも、一般的なカウンセリングの基本は傾聴と共感ですから、これをやるとフラッシュバックの蓋があいてしまい収拾がつかなくなって悪化してしまうのです。

子どもによく行われるプレイセラピーも同様で、私はほぼ禁忌と考えています。治療は続くものの臨床的にどんどん悪くなり、そのうちに子どもが嫌がるようになって中断するケースがものすごく多いですね。トラウマへの対応では一般的なカウンセリングやプレイセラピーが無効なので、フラッシュバックを起こさないための精神療法が開発されています。それが「トラウマ処理」です。

親子で受けるべきトラウマ処理

──トラウマ処理とは具体的にどんなものなのでしょうか。

ベッセル・ヴァン・デア・コークは、トラウマ処理を①トップダウン型、②ボトムアップ型、③1と2の要素を持つもの、の3つに分類しています。

①は認知行動療法による遷延曝露法(トラウマを延々と語らせて慣れを生じさせるもの)、②はフラッシュバックを起こさない反応を身体のほうに作る治療法で、マインドフルネスやヨガなどがあります。そして、③がEMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)です。これは、トラウマになっている記憶を想起しながら眼球運動を行い、その記憶と心理的な距離を取れるようにするというもの。

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