「お前は使えない」、意欲ある新卒教員が2年で退職に追い込まれた学校の裏側 特支・ICT・部活動で残業100時間超え適応障害

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子どもを指導する教員が「人に優しくない」ことに疑問

鳴海さんは「子どもを指導するはずの教員が、なぜ人に優しくないのだろう」と疑問を投げかける。

「若い世代を小馬鹿にする先生も多いですし、同僚の先生の悪口や噂話でギスギスした雰囲気になっていても、みんな見て見ぬふり。とくに管理職は保護者の肩は持つのに同僚に冷たい人が多かった。気遣いができないのに、よく教員をやっていられるなと感じてしまいました」

おそらくは、「できない人」の気持ちがわからないのかもしれない、と鳴海さんは続ける。

「赴任校では不登校の生徒が比較的多かったのですが、ふと『不登校の子は教員にはならないんだろうなあ』と考えました。裏を返すと、教員になるのは学校が楽しくて、『できる』のが当たり前だった人なのかもしれません」

実際、鳴海さんの仕事ぶりには問題があったのかもしれない。しかし、それを排除するのは教員としてあるべき姿なのか。むしろ、個々人の本来の能力を出せるように支援をするのが教員なのではないか。「なぜできないんだ」と強い言葉で萎縮させるのではなく、「一緒に考えよう」と引き上げるアプローチが必要だったのではないか。

「経験もスキルもない新人が入ってきて困るのは理解できます。自分たちも目の前の仕事に追われているのに、新人のフォローをする余裕はありませんよね。するとやはり、新人が初日から生徒や保護者と向き合う現状がおかしいのだと思うんです」

いくら教育実習を受けていても、赴任校の状況や任される業務の内容によって対応は異なる。鳴海さんが特別支援学級を任されたように、突然新しい仕事を振られるケースもあるだろう。初日からいきなりプロとしての結果を求めるのは無理がある。「短期間でもいいので、研修を受けたかった」という鳴海さんの言葉が重く響く。

「正当な待遇が受けられない点も問題だと思います。月に100時間以上残業しているのに、8000円程度しかもらえない※2のでは割に合いません。民間企業に勤めて『年収800万円を超えた』という同級生の話を聞いたときは、正直、自分の仕事がバカバカしく思えました」

※2 公立学校の教職員の給与や労働条件を定めた給特法により、原則的に時間外勤務手当や休日手当は支給されない。代わりに、月額給与の4%相当が「教職調整額」として支給される。

すぐに給与を引き上げられるわけではないが、「せめて人としての優しさを持って、新卒でも思いや専門性を尊重してほしい。やりたくない仕事や、学んでもいない領域を任せるのは、生徒にとっても不幸でしょう」と鳴海さんは訴える。

現在は別の仕事に就いている鳴海さんだが、「戻れるなら戻りたい。教員は子どもたちと一緒に成長できる素晴らしい仕事だから」と語る。教員不足が深刻化している今、こうした若者の熱意が生かされていない現実をどう受け止めるかが問われている。

(文:高橋秀和、写真:beauty-box / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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