「お前は使えない」、意欲ある新卒教員が2年で退職に追い込まれた学校の裏側 特支・ICT・部活動で残業100時間超え適応障害

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※1 休日に部活動の指導をする場合、部活動手当が支払われるが、自治体によって金額は異なる。文部科学省は4時間程度の手当を3600円に引き上げているが、自治体で実施するには都道府県条例の改正が必要なため、実質的な金額は自治体に委ねられている。

平日は18時過ぎまで部活があり、そこから授業準備や教材作成で毎日20時過ぎまで残業。自宅に仕事を持ち帰る日も多く、さらに朝も気が抜けなかった。

「朝の電話番です。当番制の学校もあると聞きますが、私の赴任校ではありませんでした。『若いんだから早く来て当然』という雰囲気でしたし、電話が鳴ると周囲の先生がこちらを見て『なぜ出ないの?』という顔をするんです」

悩みを相談できる相手がいればまた違っただろうが、新卒教員は鳴海さんのみ。コロナ禍で食事会などもなく、鳴海さんは孤立した。結果として精神的負担だけでなく、ノウハウ共有の機会も乏しくなり、特別支援学級でその弊害が顕在化した。

十分な指導もなく叱責され、適応障害を発症し退職へ

「特別支援学級での指導はやりがいがありました。生徒の心のきれいさが感じられましたし、しっかりと伝えればわかってくれるからです。でも、一緒に担当している先生方から見ると、私の至らない部分が目立ったのでしょう。『君のやり方はまずい』『生徒をちゃんと見ていない』といった指摘をたくさん受けました」

鳴海さんは指摘をひとつひとつ真摯に受け止め、改善しようと努めたがなかなかうまくいかなかったと言う。特別支援教育の基礎を学んでおらず、十分な研修も受けていないため、「わからないところがわからない」状態だったのだ。

「『ちゃんと見ていない』と言われても、どこを見ればいいのかわからないんです。それを先生方に聞くと、『自分で考えて』と突き放されるんですね。人のフォローをしている余裕がないのは理解できるので、仕方がないのですが、そうすると聞きづらくなってしまいます」

こうして、指摘されてもうまく改善できず、新たなミスを誘発する負のスパイラルとなり、鳴海さんには「使えない」というレッテルが貼られてしまった。「力を認めていない先生のことを、〜君、〜さんと呼ぶ先生もいた」中で、鳴海さんの居場所はなくなっていった。

「2年目に入ってすぐ、一緒に特別支援学級を担当していた先生から『お前使えないんだよ、どれだけフォローしていると思っているんだ』と激しく叱責されました。その頃には、ほかの先生方ともほとんど口をきかない状態だったこともあり、『もう教員を続けるのは無理』と心が折れてしまったんです」

とはいえ、生活を考えると簡単に辞めるわけにはいかない。日々の仕事は山積みで、負のスパイラルも変わらない。鳴海さんは適応障害を発症してしまった。

「精神科を受診する少し前から、『死にたい』という思いが出てきました。頭の中で、高いところから飛び降りたり、首を吊ったりというイメージが強くなって……。通勤中は動悸が激しくなり本当にしんどかったです」

医師に休職を勧められ診断書を提出すると、教頭から「なぜ休むんだ。手順があるだろう」と咎められた。そのプレッシャーもあり、通常3~6カ月が望ましいとされる休職期間は1カ月で切り上げた。もう限界だった。「このままでは命を落とす」と年度末での退職を決意。結局、有給休暇は消化できず、最終日は「辞めるなら引き継ぎ資料はちゃんと作ってよね」と声をかけられ、最後は見送りもなく帰った。

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